昨今、「ファーストキャリア」なる言葉が、主に学生の間で使われている。初めて就いた仕事や会社を指す言葉で、「僕のファーストキャリアは三菱商事」「私のファーストキャリアは人事から始まった」などと使われる。鳥には、最初に見た相手を親と思う「刷り込み」の習性があるが、人間のキャリアも同じ。自らの働き方をベンチャーで刷り込まれるか、大企業で学ぶかによって、その後のキャリアは大きく変わる。
実はファーストキャリアには、いくつかの「都市伝説」がある。そのひとつが、「ファーストキャリアに小さな会社を選ぶと、大きな組織には転職しづらい」というもの。しかし今回の取材では、それを覆す多くの実例に出合った。楽天で執行役員を務める黒坂三重さんのファーストキャリアは、社員わずか30人の地方企業「ラジオ福島」だった。
お客さんが来たらお茶を淹(い)れ、週に3回は布巾を漂白する。仕事そのものは単調だったが、小さな組織ゆえ「前後左右の仕事」にも携わることができた。漂白剤は自分で買いに行き、適した大きさを考えるようになったら、仕事の流れが見えてきた。
その後も小さな会社を転々としたことで、見える仕事の幅がどんどん膨らんだ。会社は、機能の寄せ集めだ。自ら多くの機能を経験した分、部下が増えても、それぞれの仕事内容が把握できた。
10年前、楽天のEC部門で400人の部下を抱えたときも、顔と名前と役割は一致していたという。
「知ろうとすれば、情報は入ってくる。小さな組織出身だとしても、マネジメントの幅は広げられます」
※AERA 2014年3月3日号より抜粋