内閣府中央防災会議の作業部会から発表された、首都直下地震の被害想定。前回2004年度の公表からの主な変更点は▽想定される地震が東京湾北部地震から都心南部直下地震に▽死者は約1万1千人から約2万3千人▽経済的被害の総額(建物等の直接被害)は約66.6兆円から約47兆円に。少なからぬ変更や推定される被害の拡大が一部にあったにもかかわらず、専門家は口をそろえる。
「過大ではなく現実的になった」
「現実的」とはどういう意味か。
東日本大震災の反省から「想定外」をなくすという観点で「考えうる最大」の災害予測がなされるようになり、その結果、想定が過大になる「被害想定のインフレ」を招いた。今回の想定は過大ではないという意味で現実的だという。
過大の象徴は11~13年に公表された南海トラフ地震の想定だ。
「南海トラフの巨大地震モデル検討会」が検討すべき地震のマグニチュード(M)を東日本大震災並みのM9級に設定し、想定震源域を一気に2倍程度に広げた。それまでは過去に起こった地震の震源域をもとにしていたが、科学的に推定した最大震源域に基づき作業部会が被害を推定した。死者は03年想定の約2万5千から最大約32万3千人と10倍以上に膨らんだ。その結果、一部の自治体や住民に、対策をしても意味がない、どこへ逃げても津波から助からないといった無力感が生まれた。
首都直下地震も南海トラフと同様に(1)モデル検討会が防災上検討すべき地震の震源域を決定(2)作業部会が被害推定した。だが、南海トラフのように「最大」の想定にはこだわらなかった。
モデル検討会は、防災対策の検討対象とすべきは、M7級で首都中枢機能への影響が大きい地震とし、M8級の地震は「長期的視野に立って向かい打つべき」と位置づけた。そして作業部会は関心を集める被害想定の詳細について、M7級地震のみ公表したのだ。作業部会の委員でもある工学院大学の久田嘉章教授は言う。
「過去に起きた例がなかったり、発生確率が低い地震を想定しても現実的な対策につながりませんから」
※AERA 2013年12月30日-2014年1月6日号より抜粋