「あの核実験は中国共産党もメンツをかけて阻止しようとしたが、北は応じようとしなかった。そこで中国は『積極的な不満の表示』として、国内大手銀行の口座から北朝鮮関係を締め出す措置に出たが、もう一つ、水面下で脅しの手に出た。『金正恩氏の統治資金の証拠を確保した。内容を暴露してやる』というものだった」

 ちらつかせたのは、香港、マカオ、インドネシア、マレーシア、シンガポールなどに隠した裏資金の詳細だったという。

「場合によっては香港とマカオの裏資金は凍結、他の国に隠した裏資金の公開も辞さない、と脅しに出た」(同)

 驚愕した北朝鮮側は隠匿先がなぜ漏れたか内偵に入り、疑われたのが張氏と行政部の側近たち。張氏はかねて「中国式の改革開放に前向きな親中派」とみられていた。マレーシアとインドネシアの大使は張氏の親族が務めていた。

●自信過剰とムラ気

 この5月に正恩氏の名代として訪中したのが張氏でなく、現在「新ナンバーツー」とみられる崔竜海(チェリョンヘ)・軍総政治局長だったのも、「裏資金問題」が背景にあった可能性がある。

 張氏への反感はすでに軍や党で強まる一方だった。それに「裏資金の内情を漏らした疑い」まで加わり、「夫は金王朝を乗っ取るつもりでは」と猜疑心を強める「女帝」、妻の金慶喜(キムギョンヒ)氏に見限られたとなれば、張氏の運命は先が見えたも同然だった。

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