HIVに感染していた40代男性が今年2月、感染の可能性を知りながら献血したものの、感染初期だったため、HIVは検出されなかった。検査を「すり抜け」た血液は2人に輸血され、60代の男性がHIVに感染した。40代男性は11月にも献血し、HIVの感染が分かったことで問題が発覚した。
「検査目的」で献血し、他人に感染させたと見られることから男性の責任を問う声は強い。日本赤十字社の血液事業の広報担当も「今後は責任ある献血を求めていきたい」と話す。
だが、悪いのは男性だけなのか。日赤や厚生労働省にも大きな責任がある、と話すのは感染症に詳しいナビタスクリニック立川の久住英二院長だ。
「そもそも、輸血の安全性は100%ではない。その説明を日赤や厚労省はしていません」
まず、HIVに限らずB型、C型肝炎ウイルスなどでも感染初期の検査では、ウイルス量が少なく検出できない「ウインドー期間」がある。厚労省の「血液事業報告」(2011年)では、11年報告分だけでも輸血によって13人がB型肝炎ウイルス、1人がヒトパルボウイルスB19(発症すればリンゴ病)に感染した可能性が高いとした。
次に検査体制の問題がある。日赤は輸血用血液について、HIV、B型肝炎ウイルスなど6種類しか検査していない。それ以外の感染症は「素通り」する。
中南米に多く、重い心臓病につながる恐れがある「シャーガス病」の病原体に感染した人が献血していたことが8月にわかった。感染者の血液を輸血された11人の感染の有無を日赤や厚労省が、慌てて調べた。
今回の問題を受け、日赤は検査を強化する方針を打ち出したが、ウインドー期間が数日短縮されるだけ。検査をしない感染症の対策は行われない。複数の医師は「その場しのぎにもなっていない」と指摘する。
※AERA 2013年12月16日号より抜粋