ヤマグチノリアキさん(左)五百田達成さん(右)知り合った当時の五百田さんの印象について、ヤマグチさんは「エリート街道を進んできた彼でしたが、どこか迷っているようでした」。五百田さんは独立して夢を実現。近著に『今すぐ「グズな心」をやっつける方法』(撮影/今村拓馬)
ヤマグチノリアキさん(左)
五百田達成さん(右)
知り合った当時の五百田さんの印象について、ヤマグチさんは「エリート街道を進んできた彼でしたが、どこか迷っているようでした」。五百田さんは独立して夢を実現。近著に『今すぐ「グズな心」をやっつける方法』(撮影/今村拓馬)
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 キャリアや生き方の「型」がなくなり、選択肢が増えたぶん悩みも多くなった。社内だけでなく、社外にも「メンター」を見つけることが、その悩みを解決するカギだ。

 心理関係の著作が多い五百田(いおた)達成さん(40)の「社外メンター」は、ヘアメークのヤマグチノリアキさん(49)だ。全く異なる業種である2人の出会いは、五百田さんが東京大学を卒業して入社した角川書店で編集者をしていた頃、仕事を通じてだった。ヤマグチさんは兄貴的存在になり、ファッションのアドバイスなども受けた。

 28歳で五百田さんは博報堂へ転職。有名大学を出て、ブランド企業に勤め、高い給与をもらい、周囲から見れば憧れの道を歩いているのに、本人は悩んでいた。自分がしたいのは、感じたことを書いたり伝えたりする仕事。小さい頃からの夢を追いかけて独立したいけど…。

 ヤマグチさんに思いのたけをうち明けた。月に1回はみっちりと向き合って数時間話し合った。五百田さんはやりたいことはハッキリしていたが、給与や安定性を手放してまで飛び込む勇気が持てないのが最大の悩みだった。

 五百田さんは、貯金通帳を開示して、今後のライフプランを事細かにアドバイスしてもらった。ヤマグチさんは自分の腕一本で食べてきた人。その人から、20代には借金もあったことや、独立して軌道に乗るまで何年もかかったことなどを聞くと、自分が怖がっていることが何でもないことに思えてきた。

「『最低限の生活』の設定値を低くしたら、どうしてでも生きていける。ステータスより夢をかなえることが人生で最大の喜び、と言われたことが、当時の自分に響いた。きっと他のだれでもなく、ヤマグチさんに言われたから納得できたんだと思います」

 五百田さんは33歳で独立した。ヤマグチさんに最初に言われたアドバイスは、少なくとも1年間は、お金になるからと言ってもやりたくないことは絶対にやるな、ということ。慣れていることや昔の仕事のつながりで頼まれることは収入につながりやすいので、つい仕事を引き受けてしまう。それに慣れると、夢自体を見失ってしまうというアドバイスだった。

AERA 2013年11月18日号より抜粋