お寺といえば、葬式? 法事? いえいえ、最近はちょっと違います。コーヒーをいただきながら、お坊さんに悩み相談。疲れた心を癒やしてくれる、そんなお寺併設カフェが増えている。
仏教伝道の使命感から「寺かふぇ香華庵(こうげあん)」をオープンしたのは、岐阜県瑞穂市にある廣讃寺の17代目僧侶、説田真仁(せったまひと)さん(33)だ。
「寺かふぇを通して、仏教の本来の姿、思想や精神を少しでも広めたいと思ったのです。伝えたいのは、自分に合った幸福を見つけようということ。そして、自分の固定観念を破って視野を広げること。これは、すなわち般若心経の教えをわかりやすく説いた内容でもあります」
説田さんは9歳で得度し、調理師学校を卒業してレストランに勤務した。しかし、平気で食べ残しが捨てられるレストランの現状を目の当たりにし、お米一粒の命を考え、いただけることに感謝する仏教思想とのギャップに悩んで退社。その後、仏教が生活に根付いているアジア各国を旅行した。
「仏教を理解してもらうために日本に足りないのは、深く考える時間なのではないか。ヨーロッパでは、カフェで哲学や思想が語られてきた。そこで、日本でも同じような場を提供しようと考えました」
08年に香華庵を開業した説田さんは、調理師としての腕を生かして、精進基本セットや和牛の煮込み、キンキの焼き物などかなり本格的な食事を提供するようになった。チーズケーキやロールケーキなどのスイーツも、全て自家製だ。
香華庵は繁盛したが、営利主義になっている店の現状や仏教に関心を示さない客が多いことに失望した説田さんは、店の趣旨を掲示し、仏教体験を用意した。そして、何らかの体験をした来店客には、ランチ代を割り引くことにした。
「消しゴムハンコを押して仏教ハガキを作れば500円、境内の掃除や仏具磨きなどの奉仕をすれば1千円の割り引き。仏教体験をしなくても食事はできますが、その場合は割引相当額をお布施の一部とさせていただくことにしました」
香華庵には毎日20~30人が訪れ、その約7割が女性だ。近年の仏教ブームについては、こんな分析をしている。
「不況や、良い相手に巡り合えないという不安からくるものかもしれない。人生の岐路に立ったとき、昔は占師に頼っていたが、それがお坊さんに向いているのでは?」
香華庵の来店者に期待しているのは、仏教に少しでも関心を抱いてもらい、何らかの質問をしてもらうことだ。仏教とは何か、宗派はなぜ分かれているのかなど、これまでにもさまざまな質問を受けてきた。ときには、恋愛や仕事の悩みを打ち明けられることもある。 答える際は、お釈迦様の言葉を引用するなど、仏教的なアドバイスを心がけている。
※AERA 2013年10月7日号