鶴川美和さん(28)小屋の仕事は楽しく、あっという間に時間が過ぎていく。「唯一残念なのはビールが飲めないことと、持ってきたお菓子を全部食べてしまったこと」(撮影/会田法行)
鶴川美和さん(28)
小屋の仕事は楽しく、あっという間に時間が過ぎていく。「唯一残念なのはビールが飲めないことと、持ってきたお菓子を全部食べてしまったこと」(撮影/会田法行)

 山ガールや女子キャンプなどにみるように、近年アウトドアを楽しむ女性が増えてきている。そんな中、山の休息所である山小屋で働く「山小屋ガール」たちも登場。そこには山小屋ならではの醍醐味があり、そして苦労もある。

 北アルプスの三俣蓮華岳(みつまたれんげだけ)と鷲羽岳(わしばだけ)の鞍部にある三俣山荘。北アルプスの最奥地「雲ノ平」へとつながる、素朴な雰囲気を残す小屋として登山客に知られている。先代の伊藤正一さん(90)が眺望にこだわり、わざわざ2階に設置したという食堂テラスに上がると、槍ケ岳(やりがたけ)が目の前にドドーンとそびえる。

 その食堂で、慣れた手つきでコーヒーを淹れている女性がいた。Nさん(27)は、福島県出身の元美容師。横浜の人気店で働いていた。

「家族の勧めで美容師になったけど、心からやりたい仕事ではなかったんです。そのことが職場の人たちに申し訳なくて辞めました」

 Nさんの実家は、東日本大震災で被災した。このことも美容師を辞めるきっかけの一つだったという。店に勤めている際は忙しく、思うように実家に様子を見に帰ることができなかったが、退職後は時間が確保できるようになった。北アルプスにいくつもある山小屋の中で、Nさんがこの山荘を選んだのには理由がある。

「中には食事に冷凍食品を出しているところもあるんですけど、ここは手作りのものを出していていいなと思ったんです。みそ汁が極端に薄いのとか、そういうのは嫌でした」

 三俣山荘の従業員は、支配人夫妻を含む10人のうち、4人が女性だ。鶴川美和さん(28)は島根県出身。洋菓子会社に勤務後、中学校で国語の教員として4年間ほど勤めたのち、今年7月末から働き始めた。山の経験は全くなく、今回山へ来るために初めてトレッキングシューズを買ったほどだ。小屋では受付を担当している。

「受付にいると、小屋の仕事は人の命にかかわる仕事だということを強く感じます。体調の悪い人や、けがをした人が到着した時には特に。そのようなお客さんは、まず受付で具合が悪い話をされる場合が多いので、責任重大だなと思う」

 楽しいことが多い山の生活だが、鶴川さんには悲しい出来事もあった。

「ここは携帯がつながらないから、休日に鷲羽岳の山頂に行くスタッフに携帯を預けて、メールをまとめて受信してもらうんです。そうしたら前の職場で仲が良かった人の訃報が入っていて…。お香典は人に頼んで間に合ったけれど、その時に、ずいぶん遠くにいるんだなあと思いました」

AERA 2013年9月30日号