北朝鮮の平壌(ピョンヤン)で、今密かにこんな噂が出回っている。
「金正恩(キムジョンウン)に息子が生まれた」
北の最高指導者、「元帥さま」こと金正恩第1書記(30)にはすでに幼い娘(2010年出生説がある)が1人いるとされる。だが新たに生まれた子が、平壌で広まる話の通り、男の子だとすれば、それはとりもなおさず、金日成(キムイルソン)─金正日(キムジョンイル)─金正恩と続く「金王朝独裁体制」に「4代目の首領候補」が誕生したことになるのである。
北の内情に詳しい消息筋が声を低めて口を開いた。「いつ生まれたとか、母親が誰だとか、詳しい話はない。とにかく『正恩には娘がいるが、こんど息子が生まれた』と多くの平壌市民が話しているのが確認された」
母親は誰かとなれば、まず推定されるのは妻の李雪主(リソルジュ)氏(23)だろう。彼女の妊娠説には海外メディアも注目してきた。
昨年7月初め、新たに結成された楽団のデビュー公演で、貴賓席の正恩氏の隣に座り、妻として公式デビューした李雪主氏。北朝鮮ぽくないミニスカートなど派手な服装や、正恩氏と腕を組んで遊園地などを歩く姿が内外を驚かせた。
それから2カ月後の9月8日以降、彼女の動静報道は途絶える。姿を見せたのは約50日後の10月末。平壌で開かれた楽団公演とサッカーの試合を正恩氏と観覧したと伝えられた。配信写真は驚きだった。立って拍手する彼女は黄色いマタニティードレスを着ていた。おなかの部分が見るからにふっくらして見えた。
だが年を越し、2月16日に平壌の錦繍山(クムスサン)太陽宮殿を正恩氏と参拝に訪れた彼女は黒いツーピース姿で、ウエストラインが細くなっていた。「出産を終えたに違いない」との見方が強まった。
「息子誕生」には異論もある。一部韓国メディアはこの5月、消息筋情報として「昨年12月に女児出生」と報じた。この2月に正恩夫妻と会った米NBA元スター選手、デニス・ロッドマン氏は「正恩氏の妻は娘の話ばかりしていた」と証言する。「生まれたのが娘」の可能性ももちろんある、と前出の北朝鮮消息筋は言い、「であれば、北朝鮮当局が意図的に『息子が生まれた』とウソの情報を流している可能性がある」と続けた。理由はこうだ。
「国民を食わせられない正恩氏と現体制に不満や反感を抱く層は増えるばかりだ。だが男児が生まれたと聞けば、『若い正恩に後継者もできた。金王朝は永遠に続く。抵抗しても無駄だ』とあきらめ、嫌でも従わざるを得ない気持ちになる。当局による国内心理戦だ」
※AERA 2013年9月16日号