一般に、ポジティブ=善(勝ち組)、ネガティブ=悪(負け組)、と決めつけてしまいがちだ。書店には自己啓発本が並び、ポジティブに物事を考えることがもてはやされる。

 ところが、そんな風潮に一石を投じる人が現れた。『仕事が10倍うまくいくマイナス思考術』を書いた金児(かねこ)昭さん(77)だ。

「できるビジネスパーソンほどネガティブ思考で小さなことにくよくよ悩む」

 と断じる。金児さんは、塩化ビニル樹脂で世界首位を走る信越化学工業の顧問で、38年間にわたり財務・経理を担当してきた「伝説の経理マン」として知られる。その一方、著書の中で、自らを「日本一のマイナス思考人間」と書いた。

 現役時代はいつも叱られ、その度にくよくよ悩み、「自分はなんて仕事ができないんだろう」と思い続けてきたという。そんな金児さんは、ネガティブな性格の自己判断基準として、次の四つを挙げる。

(1)物事が悪い方へ行くかもと考える。
(2)悩みや失敗を引きずって、くよくよする。
(3)自分の力を過大に考えず、卑下するくらいの姿勢でいる。
(4)リスクや心配事を次々と思いつく。

 金児さんは、こうしたネガティブ思考こそビジネスの進展に向けて役立つと話す。

「ビジネスに想定外のトラブルはつきもの。その際、リスクを予想できるかどうかは想像力の問題ですが、ポジティブな性格の人はリスクに対してもラフになりがち。ネガティブ思考の人ほど、様々なリスクを思い描き、予防策や対策を講じることで、事業を成功させることができるのです」

「日ごろから、ダメな時のことを考えることは、絶対に必要」

 と力説するのは、マスコミで働く課長職の女性(47)。今は管理部門で働くが、編集者として生活情報雑誌で料理を担当していた時は、絶えず「最悪」を想定して仕事に臨んだ。

 どんな料理にも映える白い皿は常に用意したし、気難しい料理研究家の取材の時は、途中で電車が遅れるなどの「危機」に備え、現場に30分前には到着するよう心がけた。

「何とかなるからやってみよう、っていう性格に本当は憧れます。けれど、実はマイナス面を常に想定しておくことで、守備範囲を広めることができるのです」

AERA 2013年8月26日号