北欧の風景と空気感が漂う音のつづれ織
Sideways / Jacob Young
去る9月に東京で観たヤコブ・ヤングのステージは、ノルウェーの空気感をそのまま持ってきてくれた印象が強く、それは実際に現地を訪れた経験がある自分だからこそ体感できたものだと思った。しかしそのような実体験がなくても、これまでにリリースされたアルバムを聴いているファンなら、あのライヴ空間でヤングの世界に没入するまでに、さほど時間がかからなかったはずだ。
本作は来日メンバーと同じ顔ぶれのクインテットによるECM第2弾。録音上では3年半前となる同第1弾『イヴニング・フォールズ』と変わらぬメンバーの作品だが、今作は国内リリースが見送られたので、尚更力を入れて紹介したい。1970年リレハンメル生まれのヤングは、ニューヨークでの書生時代にジム・ホールとジョン・アバークロンビーに師事。2人のギター・マスターからイメージできるものが、ヤングのスタイルの基本を形成していると言っていい。本作のヤングはアコースティック・ギターに重点を置きながら、ジャズ界の常識的な2管クインテットとはまったく発想が異なるサウンドを創造している。来日公演の風景とも重なるそれは、静謐な雰囲気を丁寧な手作業によって織り上げる趣だ。すべてヤングが用意したオリジナル曲は、北欧の風景と空気感が立ち上るもの。インテリアのように聴ける音楽でありながら、意識的に集中して聴けばずっと大きな感銘を受ける音楽。近年注目が高まるノルウェーのジャズにあって、魅力的なオリジナリティを感じることができる作品だ。若手~中堅を核としたメンバーにあって、唯一のベテランであるヨン・クリステンセンが熟練の技で作品に貢献していることも特筆したい。
【収録曲一覧】
1. Sideways
2. Time Rebel
3. Slow Bo-Bo
4. Near South End
5. Out Of Night
6. Hanna’s Lament
7. St.Ella
8. Maybe We Can
9. Wide Asleep
10. Gazing At Stars
2006年5月オスロ録音
ヤコブ・ヤング:Jacob Young(ac-g,el-g) (allmusic.comへリンクします)
マティアス・アイク:Mathias Eick(tp)
ヴィダー・ヨハンセン:Vidar Johansen(b-cl,ts)
マッツ・エイオラートセン:Mats Eilertsen(b)
ヨン・クリステンセン:Jon Christensen(ds)