東京電力の北関東の支店に勤務する40代前半のBさんは、社内では不動産の取得や管理といった用地関係を一筋に担当してきた。主な仕事に、借地の契約更新がある。たとえば一本一本の電信柱。私有地ならば、3年ごとに借地料の契約書を更新する。原発事故後、この作業が滞るケースが出ている。

「電気料金は値上げするのに、借地料は据え置きなのか」

 そんな文句を言われるケースもある。Bさんは何度も所有者を訪ね、ひたすら頭を下げる。

「お客様から『値上げして、いい給料をもらっている』などと批判されますが、値上げは発電コストの転嫁で、給料とは無関係。でも、なかなか理解してもらえません」

 家族も肩身が狭い。妻は事故前までは「エリート会社の奥さん」で通っていた。子どもの保護者会でも、安定ぶりを羨望され、ささやかな優越感があった。事故後、そんな空気がすうっと消えた。面と向かった批判などはされず、ただ静かにスルーされてしまう。

「それが、かえってつらいようで。妻には申し訳ないです」

AERA 2012年10月15日号