ジャーナリストの田原総一朗氏は、IT革命に乗り遅れた我が国の状況を鑑み、“人生120年”時代の日本のあり方を考える。
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1年ばかり前に、京都大の山中伸弥教授が私に、「ゲノム編集による再生医療によって、今後10年くらいでほとんどの病気が克服されるようになる」と語った。
「ほとんどの病気が克服される」ということは、人間の寿命が延びるということである。山中氏は、平均寿命が120歳ぐらいになるのではないか、と言われた。
もちろん寿命が延びるというのは、ありがたいことである。これまで世界の医療は、何とかして難病を克服しようと懸命になってきた。
かつては、がんが発見されれば、すなわち生命の危機とされてきたのだが、医療の発達によって克服されるケースもあり、抗がん剤などの普及で生存期間が延びている。
ただ、問題も少なからず生じる。
これまで、私たち日本人の人生設計は、約20年間学び、約40年間働き、約15年間年金生活をする、というものであった。
だが、平均寿命が仮に大幅に延びた場合、人生設計を作り直さざるを得なくなる。
たとえば、現在では65歳から年金が受給できるのだが、平均寿命が100歳を超えれば、現在の年金制度は破綻(はたん)する。少なくとも、年金受給年齢を75歳程度に引き上げる必要がある。となると、75歳までは働ける、ということにならざるを得ないのだが、現在の60歳定年制をどうすればよいのか。
今、多くの企業で50代の従業員が大きな問題になっている。
50代になって部長や課長などの役職に就いた従業員はともかく、役職に就けなかった50代はモチベーションに欠けて、しかも給料は高く、使いにくい。経営陣としては解雇したいのだが、終身雇用制でそれができない。どの企業でも大きな問題になっているのだが、75歳まで働けるとなると、一体どういうことになるのか。
さらに、1989年には時価総額で世界のトップ50社の中に、日本企業が32社入っていた。1位はNTTであった。ところが、2018年には、世界のトップ50社の中に残っているのはトヨタ1社だけで、しかも35位であり、その他の企業はすべて落ちこぼれてしまったのである。