著名人がその人生において最も記憶に残る食を紹介する連載「人生の晩餐」。今回は、エジプト考古学者・吉村作治さんの「駒形どぜう 浅草本店」の「どぜうなべ」だ。
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ずいぶん昔の話になりますが、僕が東京学芸大学付属高校に入学した時、家族みんなでお祝いをしたのがこちらのお店。父が江戸友禅の手描き職人だったので、浅草にお客さんが多くて行きつけにしていたんです。
はじめて目にする「どぜうなべ」は正直ちょっと気味が悪くて、箸が進まなかった。見かねた父が取り皿に入れて「ほら、食べろ」って半ば無理やり食べさせられましてね。ところがひと口食べたらぜんぜん臭みがなくて、想像以上においしくて驚いた。それ以来、父によく連れていってもらいました。
あれから60年以上経ちますが、店構えも当時と変わらず風情がありますね。江戸情緒がさらに料理をおいしくさせます。近頃はひとりでふらっと出かけて、入り口近くの小さなテーブル席で熱燗をちびちびやりながら鍋をつつくことが多い。僕はいつもささがきごぼうを足して、ネギをたっぷり盛って食べるのが好み。思わず酒が進みます。くじらベーコンも最高のつまみになりますよ。
(取材・文/沖村かなみ)
「駒形どぜう 浅草本店」東京都台東区駒形1‐7‐12/営業時間:11:00~21:00L.O./定休日:大晦日・元日
※週刊朝日 2020年2月21日号