北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。作家、女性のためのセックスグッズショップ「ラブピースクラブ」代表
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イラスト/田房永子
イラスト/田房永子

 作家・北原みのり氏の週刊朝日連載「ニッポンスッポンポンNEO」。今回はどこに行っても流れる日本の「注意喚起」について。

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 海外から東京に帰る度に思うが、日本って、うるさくないですか? 飛行機から出た途端に耳に入る「騒音」に「ああ帰ってきたのだなぁ」としみじみ思う。

 動く歩道に乗れば「もうすぐ降り口です。足元にお気をつけください」との永遠に繰り返す機械音に注意され、天井の低い階段を下りれば「頭上に注意!」と大きな赤い字で記してあり、入国審査では職員たちが大声で「日本のお客様はこちら!!!」と言い続ける横を通り過ぎ、電車に乗れば「他の人の迷惑になるから○○するな」という注意を空港から自宅まで、少なくとも5回は聞くはめになる。

 親切なのかもしれないが、過剰だ。大声出したり、赤く大きく書いても耳や目の不自由な人や日本語を知らない人には全く意味がないし。これほど、どこでも毎日“注意喚起”される社会は、世界的に見ても珍しいのではないか。

 ここ数年、私が苦しみ続けている“注意喚起”がある。東京駅の新幹線改札だ。あそこには一日中職員が立っていて、「切符を取り忘れないように」と大声で言い続けている。取り忘れる人が多いにしても、数人がかりで一日中やる仕事だろうか。もし私が日本語を理解しない人だったら、大声でわめく制服姿の人々に「いったいどんな事件が起きたのか」と不安になるだけだろう。何より、人間性を無視された仕事に見え、改札を通る度に胸も耳も痛くなる。

 ついでに言えば、映画の前に必ず流れる“NO MORE 映画泥棒”も新幹線改札並みにつらい。「違法コピーするな」の注意喚起動画だが、あれほど人の感情を平坦(へいたん)にさせる映像は他になかなかない。映画予告の壮大な音に耳が慣れてきたところに、ひどく平らな音楽にあわせてのパントマイム、しかもチープ。ああ、無粋。映画直前に流すことで、観客全員に強制的に見せようとしている意図も含めて、逃れられない不自由さにもがきたくなる。大げさでなく内心の自由を侵害されている気分だ。“映画泥棒”が映画館に義務づけられたのは2007年からだが、アレを強制される苦痛には12年以上経っても全く慣れず、映画館に関しては「昔のほうがよかった」と心から思う。

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北原みのり

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北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。女性のためのセクシュアルグッズショップ「ラブピースクラブ」、シスターフッド出版社「アジュマブックス」の代表

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