第44期囲碁名人戦就位式に臨み、拍手で迎えられる芝野虎丸名人 (c)朝日新聞社
第44期囲碁名人戦就位式に臨み、拍手で迎えられる芝野虎丸名人 (c)朝日新聞社
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2020年の顔 1/2 (週刊朝日2020年1月17号より)
2020年の顔 1/2 (週刊朝日2020年1月17号より)
2020年の顔 2/2 (週刊朝日2020年1月17号より)
2020年の顔 2/2 (週刊朝日2020年1月17号より)

 林海峰(りんかいほう)、趙治勲(ちょうちくん)、井山裕太……。囲碁の歴史をひもとくと、若くして名人になった棋士は、ブレークして時代を画する大棋士になっている。

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 彼らの跡を襲うと目されるのが、芝野虎丸だ。19歳の昨年、名人初挑戦で39歳の張栩(ちょうう)名人を破り、史上初の10代名人となった。

 記録ずくめの名人獲得劇だった。七大タイトルを通しても史上最年少のタイトルホルダーで、名人獲得に伴う九段昇段も史上最速。2014年9月のプロ入りから5年1カ月での九段昇段は、それまでの井山の7年6カ月を大幅に短縮した。

 棋風は熱く、激しい。リスクの高い手を恐れず選び踏み込む。昨年まで3年連続の年間最多勝を挙げた。

「虎丸」という名とあいまって、囲碁を知らない読者なら、外貌(がいぼう)も闘志あふれる火の玉ファイターを想像するかもしれないが、違う。身長165センチ、体重45キロのきゃしゃな体つきで、挙措もおしとやか。盤上に音を立てず石を置く。

 語ることばも、既成の勝負師像とはほど遠い。名人獲得10日後の日本記者クラブの会見では、質問者を戸惑わせた。

 修業時代の厳しい囲碁道場は「やめたかった」。

 何をモチベーションにここまで? 「成り行きで。囲碁は好きですし」

 次にめざすものは? 「ないですね」

 一番になる野心がないのに、名人になるとは。囲碁の女神に見初められた天才なのだろう。同じ天才でも、当たり前に頂点をめざしてきた歴代の名人とは、ひと味もふた味も違う。

 ゲームの申し子である。ゲームプランナーの父をもち、ゲームソフトに囲まれて育ち、囲碁もゲームキューブの「ヒカルの碁3」でおぼえた。囲碁AIの革命的な手法を柔軟に吸収する。対局中、AIの推す手と、芝野が実際に打つ手との一致率は、極めて高い。

 名人獲得後も勝ち続け、20歳になった11月、井山を倒し王座を奪取し、早くも二冠に。18年夏まで七冠独占の絶頂にいた井山は、1年あまりで三冠に後退。長く続いた「井山1強」の時代は終わりを告げるのか。

 芝野の次のターゲットは十段。すでに挑戦者決定戦トーナメントの決勝まで勝ち上がっている。相手は井山だ。(朝日新聞文化くらし報道部・大出公二)

週刊朝日  2020年1月17日号