落語家・春風亭一之輔氏が週刊朝日で連載中のコラム「ああ、それ私よく知ってます。」。今週のお題は「レギュラー」。
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そろそろ来年の手帳にスケジュールを書き込まねばな。簡易なメモ帳に控えた来年のスケジュールを、フリクションの青インク、0.38ミリボールペンでシコシコ書き写す作業はけっこう好き。
自分の落語の持ちネタも毎年新規に書き換えている。ネタを年に何回口演したかを「正の字」をつけて数えるために、新しい手帳にネタを書き出すのだ。案外とマメなのです。数えたら200超あった。多いほうだとは思うが「今、やってください」と言われて、すぐできるのは30くらいか。いや、1時間の猶予をもらえればできるのがそれくらいかな。「今すぐ」なら15くらいかもしれん。年間通して一回もやらなかったネタもたくさんある。覚えて一回やったきりでお蔵入りになったネタも20くらいある。そんなネタを作らないために回数をチェックしてるのだが、どうにも口慣れたネタばかりに偏ってしまう。だから読者の皆さん、たいてい「ネタ数の多い噺家」=「やったことのあるネタが多い噺家」なので過度な期待はしないように。
不特定多数のお客様が対象の寄席では、「最大公約数にウケるネタ」を選びがちだ。自然『レギュラー』ネタが固定してしまうのはしょうがないかな。一之輔のとっさにできる口慣れたウケる(ウケない時もあります)ネタのスターティングラインアップはこんなかんじ。2019年バージョン。おじさんはなんでも野球に例えがち。
1.(中) 鈴ケ森 泥棒の滑稽噺。かなりハイテンポなのでお客を置いていきがちだが、爆発的にウケることもあるパンチ力を秘めた超俊足の中距離砲。
2.(二) 加賀の千代 甚兵衛さんという「落語国のゆるゆるおじさん」が活躍。ちょっとBL気味な隠居さんとの仲良し噺。顔技小技を使う卑怯な寝業師。
3.(右) 普段の袴 元々は地味な噺だが、手を加えたらいい味が出てきた。侍に憧れるバカが主役。真似して失敗する「オウム返し」のアベレージヒッター。