コンパス/ジョシュア・レッドマン
コンパス/ジョシュア・レッドマン
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表現者として自分に正直な姿勢を貫いたジョシュア・レッドマンの新作
Compass / Joshua Redman

 アルバム・デビューから15年を経たジョシュア・レッドマンは、気が付けばこの2月に40歳となる。これはそんなタイミングでリリースされる、2年ぶりの新作だ。近年はオルガン入りのトリオを率いるリーダー活動と並行し、参加ミュージシャンとしてはオールスター・バンドのSFジャズ・コレクティヴでフロントマンを務めて、来日公演も行った。本作は前作『バック・イースト』から取り組んでいるピアノレス・トリオのバンド・コンセプトを、引き続き押し進めたものだ。しかし詳しく見れば相違点がいくつか発見できる。

 ゲスト参加したサックス奏者を今回は迎えず、ワン・ホーンに徹した。半数以上をスタンダードとジャズ・ナンバーで占めた前作に対して、今回は3曲を除きすべてジョシュア・オリジナル。この2点だけでもジョシュアが前作以上に未開拓の個性を探求することをアルバムのテーマに掲げたことが理解できる。さらに本件はここでとどまらない。楽曲によってベーシストとドラマーが交代する編成の実績を踏まえて、『バック~』ツアー中にジョシュアは本作のアイデアが浮かんだという。それは2ベース・カルテットと2ベース+2ドラムス・クインテットであった。

 前作との違いは聴き比べれば、よくわかる。収録曲2曲を含めてソニー・ロリンズのピアノレス・トリオ名盤『ウエイ・アウト・ウエスト』をジョシュアが意識した前作は、いくつかのカヴァー曲がアルバムに明るさをもたらしていたし、実父デューイ・レッドマンとの最期の共演ナンバーも、美しい親子愛を感じさせてくれた。そのような聴きやすさの点で、本作は完全に甘さを排した仕上がりになっており、聴き手が感情移入する余地が少ないことが、本作におけるジョシュアのストイックさを証明していると思う。では最大の興味であるダブル2リズムの効果はいかに。ポイントはタイプの異なるハッチンソンとブレイドが左右のチャンネルで分離して聴こえること。ドラムスの音量が2倍になってリズムが複雑化することが編成の目的ではなく、得がたい名手の個性を同時に生かすことから生まれる想定できないサウンドがジョシュアの意図だった。そう考えると、敢えてわかりやすさを追求せずに、表現者として自分に正直な姿勢を貫いたことに拍手を送りたくなる。書生っぽさを残したアルバム・プロダクションにもシンパシーを覚えた。

【収録曲一覧】
1. Uncharted
2. Faraway
3. Identify Thief
4. Just Like You
5. Hutchhiker’s Guide
6. Ghost
7. Insomnomaniac
8. Moonlight
9. Un Peu Fou
10. March
11. Round Reuben
12. Little Ditty
13. Through The Valley

ジョシュア・レッドマン:Joshua Redman(ts,ss) (allmusic.comへリンクします)
ラリー・グレナディア:Larry Grenadier(b)
リューベン・ロジャース:Reuben Rogers(b)
ブライアン・ブレイド:Brian Blade(ds)
グレゴリー・ハッチンソン:Gregory Hutchinson(ds)

2008年3月NY録音