ブループリンツ・オブ・ジャズ Vol.2/ビリー・ハーパー
ブループリンツ・オブ・ジャズ Vol.2/ビリー・ハーパー
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不変のスピリットが隅々まで行きわたった力作
Blueprints Of Jazz Vol.2 / Billy Harper

 ビリー・ハーパーの名前を聞いて、年季の入ったジャズ・ファンなら70年代の日本制作盤『ラヴァーフッド』と収録曲「ソーラン節」を思い出す向きが少なくないはずだ。日本民謡を黒人サックス奏者がカヴァーしたことだけでも、当時多くの人々の意表を突いたわけだが、ハーパーはこの曲を見事に自分の主要レパートリーとしたのだから立派である。今の感覚で言えば、ハーパー流スピリチュアル・ナンバーとなろう。

 あれから30年が経ち、60代半ばを迎えたハーパーを去る1月、チャールズ・トリヴァー・ビッグ・バンドの来日ステージで観た。サックス・セクションの最年長だったハーパーは、しかし往時と変わらないエネルギッシュでマッシヴなトーンをテナーで響かせ、ぼくにはバンド・メンバーで最も輝かしい男に映った。そんな印象がまだ新鮮なタイミングで届いたのがこの新作である。

 今回は長いキャリアにおいて前例のない作風に挑んでいる点が特筆ものだ。象徴的なのが17分近いハーパーのオリジナル曲#1。ジョン・コルトレーンの《アフリカ》を下敷きにした演奏は、アミリ・バラカの器楽的な朗読をフィーチャーし、アフリカン・アメリカンとしての出自を踏まえながら、大河ドラマのようにジャズ史を参照している。著名詩人のバラカはデヴィッド・マレイらジャズ・ミュージシャンとの共演が豊かで、その意味では目新しくはないのだが、ハーパーがデビュー時から志が揺るがない姿勢を鮮明にしたことに、このトラックの価値が存在する。飛ぶ鳥を落とす勢いでシーンを疾走したあの頃が甦る濃密な空気感に、信念を貫いてきたジャズマンならではの説得力が横溢。

 バラカは#2にも貢献し、合わせて約26分の冒頭2曲でアルバム・コンセプトを決定付けている。ゴスペル・シンガーが好んで取り上げる賛美歌#7では、ハーパーが自慢の(?)喉を披露しており、この曲が黒人奴隷貿易の元船長が後悔の念を込めて作詞したものだと知れば、誰もが共感するに違いない。ハーパーの不変のスピリットが隅々まで行きわたった力作である。

【収録曲一覧】
1.Africa Revisited
2.Knowledge Of Self
3.Another Kind Of Thoroughbred
4.Thoughts And Slow Actions
5.Time And Time Again
6.Who Here Can Judge Our Fates?
7.Amazing Grace
8.Cast The First Stone? (…If You Yourself Have No Sins)
9.Oh…If Only

ビリー・ハーパー:Billy Harper(ts,vo) (allmusic.comへリンクします)
フランチェスカ・タンクスリー: Francesca Tanksley(p)
アーロン・スコット: Aaron Scott(ds,per)
アミリ・バラカ:Amiri Baraka(spoken word)

2006年8月録音