「9割の改善率」というリコード法とは、いったいどんな治療なのだろう。その内容を知るためには、まずはアルツハイマー病の基本を押さえる必要がある。

 認知症にはいくつか種類があり、その約6割を占めているのが、アルツハイマー病だ。進行性の病気で、認知機能の低下によって日時や場所、人がわからなくなったり、最近起こったできごとを忘れたり、意欲がなくなって閉じこもったりする。

 こうした中核症状(認知機能の低下)とともに表れるのが、BPSDと呼ばれる行動・心理症状。周辺症状ともいい、暴言や暴力、自分のいる場所がわからなくなって道に迷うといった行動面の症状と、不安、幻覚、妄想といった心理面の症状が表れる。周辺症状のほうが、むしろ介護を担う家族の負担を大きくしているともいわれる。

 現在、わが国で健康保険が使える治療薬は、ドネペジル(アリセプト)やガランタミン(レミニール)、リバスチグミン(イクセロン、リバスタッチ)、メマンチン(メマリー)の4剤。いずれも根治薬ではなく、進行を遅らせるために使う。これらの薬の有用性については疑問視する声もあり、フランスでは昨年、治療効果が不十分として、4剤を医療保険から外した。

 一方で、アルツハイマー病の患者の脳にたまるアミロイドβというたんぱくをターゲットにした根治薬の研究開発も盛んだ。しかし、ほとんどが臨床試験で有効性を示せず、道半ばで挫折している。

 こうした薬物治療と一線を画すのが、リコード法。前述したとおり、原因に応じた生活習慣の改善や環境整備を実践していく治療だ。薬ではうまくいかないのに、なぜリコード法だと“治る”のだろうか。白澤医師はこう説明する。

「新薬の研究の傾向からもわかるように、アルツハイマー病に対する今の主流の考え方は“アミロイドβがアルツハイマー病の原因”というもの。それに異を唱えたのがブレデセン博士です。アミロイドβは原因ではなくて、“感染や炎症といったさまざまなダメージから脳が身を守ろうとした結果、できた物質”だと考えたのです」

 要するに、リコード法はアミロイドβを“なくす”のではなく、“ためないようにする”ことに着目した治療といえる。

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