「例えば、銀行預金を思い浮かべてください。ある月の1日と翌月の1日の預金残高が同じだったとします。でも、それは見た目の残高が同じであるだけで、その間に収入もあれば、支出もあります。アミロイドβもこれと同じで、一見、同じように脳にたまっているように見えても、実は代謝したり、蓄積したりを繰り返しています」(白澤医師)
収入と支出のバランスが崩れて、収入が多くなれば預金額が増える。家計的にはうれしいが、アルツハイマー病に置き換えると、アミロイドβがたまった状態なので、よろしくない。反対に収入を減らして支出を増やせば家計は赤字だが、アミロイドβは減りアルツハイマー病は改善できる。
この“アミロイドβを減らす”のが、リコード法の根本的な考え方だ。
この画期的な治療の成果が世間に示されたのは、2014年。ブレデセン博士らは、アルツハイマー病やその前段階であるMCI(軽度認知障害)の患者10人にリコード法を試みた。すると、治療開始3~6カ月以内に9人の患者で中核症状と周辺症状が改善した。以降、アメリカでは500人以上にもおよぶ認知症患者が、リコード法を実践しているという。
実は、国内からも有効性を示すデータが報告されている。3年前からリコード法を取り入れているブレインケアクリニック(東京都新宿区)名誉医院長の今野裕之医師が、今年7月、日本オーソモレキュラー(栄養療法)医学会第1回総会で発表した。
アルツハイマー病を含む認知症患者22人(平均年齢66.2歳)にリコード法を実施した結果、MMSE(ミニメンタルステート検査)の平均が初診時の20.6から改善、2回目(3~4カ月後)には21.5となった。MMSEとは、広く行われている認知機能検査の一つで、30点が満点。27点以下だとMCI、23点以下だと認知症が疑われる。今野医師は、「改善を認めた割合は8~9割。認知機能が低下していたのは、1人だけでした」と言う。
「ある患者さんのご家族からは、『これまで不安や意欲の低下があったが、リコード法を始めてからは頭がはっきりしてきた』という報告がありました。最近では部屋の片付けを手伝うようになったそうです。記憶力はまだ十分に戻っていませんが、明らかな変化がみられています」(今野医師)
患者のこの変化で喜んだのは家族だ。家庭内が明るくなり、笑顔が増えたという。今回の発表データは期間が短かったが、今後、長期にわたって認知機能が維持できるか検証していくそうだ。(本誌・山内リカ)
※週刊朝日 2019年12月13日号より抜粋