提訴の記者会見が、女性は自身の氏名は匿名としながら、会社の名称は公開していたことに触れ、「契約社員になるか自主退職を迫られた」「労働組合に加入したところ、代表者が危険人物と発言した」「子どもを産んで戻ってきたら、人格を否定された」と発言したことも事実と異なるため、会社の名誉毀損になると認定され、女性に損害賠償金の支払いが命じられたのだった。
判決文によると、「自己の要求が容れられないことから、広く社会に報道されることを期待して、マスコミ関係者らに対し、客観的事実とは異なる事実を伝え、録音したデータを提供することによって、社会に対して一審被告がマタハラ企業であるとの印象を与えようと企図したものと言わざるを得ない」と評価が一変したのだ。
3点目の焦点は、就労時間中に作った私的メールだ。証拠として提出されたメールの一部は以下。
「早くあの場から去りたいですが、辞めると交渉権を失ってしまうので、会社の敗北をしかと見届けるまで、戦います。(略)引き続き、報告はさせてくださいまし。ひひ^^」(2014年12月10日)
「今、「マタハラ」が脚光を浴びていること。提訴し、記者会見をすることで、裁判には前向きです。(略)早期解決を図るため金銭的和解に応じるのであれば、800万。その金額以下で、裁判を避けることは考えておりません。提訴することが決まり、会社名を公表した記者会見をし、その後、和解、という流れで、会社に対して、十分な社会的制裁を与えることができれば、800万という金額にはこだわりません。会社は、裁判というより「記者会見」を嫌がるでしょう。「記者会見」を避けるために、こちらの言い値を支払うこともありえると思っています。(略)『800万or提訴&記者会見』という私の意思をお伝え頂けますと幸いです。」(2015年6月6日)
一審では、このメールはあくまで女性の内心を労働組合関係者や弁護士に向けたもので「信頼関係を破壊するものではない」という判断だった。女性側の高裁準備書面でも「自分用の備忘録であって第三者に送信されたメールではない。あくまで内心の問題」と主張していたが、高裁判決では、その他の私的メールのやりとりも含め「職務専念義務に違反した」に変わった。