「部下を怒るときには、その目的は何かをきちんと把握することが大事だ。部下を怒る目的は、へこませることでも、反省させることでもなく、どうしてほしいかリクエストを伝えることだ」(安藤代表理事)

 事実や行動、結果など第三者が評価して同じになるものは叱ってもいいが、性格とか人格など人によって評価や捉え方が違ってくることについては叱るべきではないという。具体的には、遅刻をしたという事実をとがめるのは良いが、「だらしないから遅刻した」と言って叱ると、ハラスメントになる恐れがある。

 そもそも、パワハラ防止法は、相談窓口を作るとか、就業規則に明記するといった防止の取り組みを企業に課すものであって、パワハラ行為自体を禁止する法律ではない。

 トヨタ自動車に勤務していた当時28歳の男性が上司のパワハラが原因で17年に自殺したとして、愛知県豊田市の豊田労働基準監督署が労災認定していたことが明らかになった。

 代理人によると、男性は大学院修了後、15年4月に入社し、約1年間の研修を経て、車両設計を担当する部署に配属になった。

 そこで、直属の上司に「ばか」「死んだほうがいい」といった暴言を浴びせられるようになり、4カ月後に休職に追い込まれ、病院で適応障害と診断された。

 3カ月後、通院をやめて別のグループに復職したが、席が上司の斜め向かいだったといい、男性は約1年後に社員寮で自殺した。

 どんなに研修を積んでも上司の暴走を止めることができなければ、パワハラ被害者は無力だ。相談窓口が機能し、その後の対応が的確になされないと、悲劇を止めるのは容易ではない。

「パワハラを行うような人間は、自分の行為を正当化するために被害者を攻撃しているため、その考え方を改めさせるのは至難の業だ」

 こう指摘するのは、自らもパワハラ被害を経験し、パワハラで悩む人のための相談を受け付けている未来創心塾の原田彗資代表だ。

「相談者には『自分の人生にとって、何が一番大事か』を考えるように話している。パワハラを受けている職場が、自分の人生のためにかけがえのない場所である場合は別だが、経済的に必要だからという理由でその職場で我慢しようとするのなら、退職する選択肢を考えるべきだ。今は代わりの仕事はいくらでもあるし、パワハラで退職をすることは決して逃げではない」

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