記者会見で涙ぐむ織田信成氏 (c)朝日新聞社
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【厚生労働省が示すパワハラの境界案】パワハラに該当しないと考えられる例 (週刊朝日2019年12月6日号より)
【厚生労働省が示すパワハラの境界案】パワハラに該当しないと考えられる例 (週刊朝日2019年12月6日号より)

 会社で、学校で、スポーツ界で、パワーハラスメント(パワハラ)が止まらない。人手不足を背景に慌てて対策に乗り出す企業もあるが、働く現場での人権意識の改革は進まず、上下関係が重要視される日本で「いじめ」体質が収まる気配はない。

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 パワハラ防止策を企業に義務付ける「労働施策総合推進法の改正法(パワハラ防止法)」が5月に成立。大企業では2020年6月から、中小企業では22年4月から職場のパワハラ防止策が義務付けられる見通しだ。

 パワハラ防止法では、職場におけるパワハラについて、「優越的な関係を背景とした言動」で、「業務上必要かつ相当な範囲を超えた」ものにより、「労働者の就業環境が害される」ことであると定義している。

 厚生労働省の労働政策審議会(厚労相の諮問機関)の分科会は11月20日、企業に求める具体的な対策を盛り込んだ指針案を示した。どのような行為がパワハラに当たるかの判断基準を示すのが狙いだ。

 厚労省はパワハラ防止法が施行される来年6月までに周知する方針だが、企業関係者からは、

「パワハラと指導の線引きが難しく、本来必要な教育的な指導を躊躇(ちゅうちょ)してしまうなど業務に支障が出かねない」

 といった不安の声が出ている。

 管理職を対象にした企業研修などを展開している日本アンガーマネジメント協会の安藤俊介代表理事は、指針によってパワハラ行為を規定する限界についてこう話す。

「例えば、指針案の中の『個の侵害』について、上司が部下に『週末何してたの?』と聞いたら、個の侵害に当たるのか。これが、仲の良い先輩後輩の間で交わされた会話なら、『実は先輩、聞いてくださいよ』となるかもしれないし、反対に、関係が悪い場合は『なんでそんなこと聞いてくるのか』と嫌がらせに感じる場合もある。パワハラの指針によって、完全に黒と白に色分けすることはできない」

 同協会に対し、パワハラと受け取られない適切な指導の方法を学ぶための研修を依頼する大企業が増えているという。

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