


ジャズが面白くなるための「筋トレ」、ブラインドのコツの続きです。何事も「訓練期間」はあんまり面白くなく、そこでメゲる人も多い。というか、具体的成果が見えるまでは、どうしても疑心暗鬼になりがち。「こんなことやって何になるんだ」。そこで今回は結果がわかりやすく、かつ訓練自体が面白い方法をご紹介いたしましょう。それは「スタンダード・ナンバー」を利用する方法です。
ちょっと意地悪な言い方ですが、ジャズ入門者は「曲の魅力」でスタンダードを聴いているようです。もちろん、最初はそれでかまわないのですが、こうした「ジャズの聴き方」では、早晩ジャズに飽きます。私がそうでした。どんな名曲も繰り返し聴けば「もうわかった」となるものです。
しかし、同じ曲を違うミュージシャンの演奏で「聴き比べ」てみると、新たな発見があります。たとえば、同じ《あなたは恋を知らない》でも、ソニー・ロリンズの超有名盤『サキソフォン・コロッサス』(Prestige)に収録されているバージョンと、それに対抗意識を燃やしたのか、ジョン・コルトレーンがこれもよく知られた『バラード』(Impulse)に吹き込んだ演奏とでは、明らかにアプローチ、テイストが異なっています。ジャズを聴きなれていなければ同じ曲とはすぐには気が付かないかも知れません。
ですから、こうした場面では曲目自体よりも、「演奏の仕方」が聴き所となることはおわかりになりますよね。で、この「演奏のやり方の違い」をちゃんと聴きとることができれば、イヤでもロリンズとコルトレーンの違いも実感出来る。これって、「ブラインド」が出来たということなのですよ。
つまり、スタンダードによる聴き比べを利用すれば、名曲の素晴らしさも知ることができ、その楽しみの先にジャズの奥座敷、ミュージシャンの個性の違いを堪能するという、ジャズの本質に根ざした究極の醍醐味への道が拓けて来るのです。
そして同時に、何から聴いて行けば良いのか迷いがちなジャズ入門者の方々へのアルバム購入ガイドとして、「同じ曲目を異なるミュージシャンで聴く」というひとつの指針が示されたと思うのです。多くのジャズマンが取り上げることにより「スタンダード=定番曲」となった「スタンダード・ナンバー」は、格好の購入対象ではないでしょうか。
ご参考のために、エリック・ドルフィーがこの曲をフルートで演奏しているアルバムもご紹介しておきましょう。これも名盤『ラスト・デイト』(Fontana)です。[次回6/17(月)更新予定]