やがて小林は小学生と言葉を交わし、なんとなく仲良くなり、それから“虹と少年”を撮り始めた。

「昭和の初めごろの司馬少年に会えたような、不思議な気持ちになりました。それまでの竹内の風景も違って見える瞬間でした」(8月16-23日合併号「司馬遼太郎と昭和」に掲載)

 小林はオールラウンドで写真を撮ってきている。

 阪神・淡路大震災、オウム・サリン事件といった事件現場もあれば、デビュー当時の「嵐」や松たか子、韓流のスターたちも撮った。

 宮尾登美子さん、北川悦吏子さんらの知己を得、夏の甲子園の取材には10年、夏のオリンピックは3大会も経験している。

 国内外の少年少女にもモテるが、動物にもモテる。

 集団で走るモンゴル馬、北海道の道産子の大群、沖縄・竹富島の、松山・道後温泉の犬など、みんな小林の願いどおり、フォトジェニックな位置でピタリと止まる。

「動物を撮るときは存在を消すようにしてます。奈良の若草山の夕暮れには鹿が集まってきて、うろうろしています。やがて一頭の鹿だけが、ちょうどいいところで佇(たたず)んでくれました」

 残念なことに蚊にも好かれる。『本郷界隈』の取材では三四郎池や薮下の道、一葉旧居などで計20カ所刺されてボヤいていた。

 今度の写真集で小林のお気に入りの一枚に、十三湖(十三湊)がある。

「朝の6時ごろ、冬の十三湊はまったくの無音の世界でした。司馬さんは太宰治が『人に捨てられた孤独の水たまり』と表現していると書いていますが、まさしくそのとおりでした」

 写真集では、写真に司馬さんの文章を添えた。

<十三湊とその周辺こそ“北のまほろば”だったかもしれない>

 写真の横の司馬さんの言葉を読むと、『街道』の視点が伝わってくる。

<津軽や南部のことばをきいていると、そのまま詩だとおもうことがある>
<日本民族はどこからきたのであろう>
<私は、かりそめのことながら、別の惑星からきたとして、日本国を旅している>

 言葉と写真の幻想的な旅をお楽しみください。(本誌・村井重俊)

週刊朝日  2019年11月15日号

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