ソロピアノ作『Spectrum』を発表して世界ツアー中の上原ひろみ。初日はポーランド。そしてモスクワ、チューリヒ……。作曲中に想像していたオーディエンスの姿と対面する旅が続く。
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9月18日、ピアニストの上原ひろみはソロピアノアルバム『Spectrum』をリリースした。アルバムのテーマは「色彩」。
「この何年かでピアニストとしての自分が一番成長したのは、音色のバリエーションが豊かになったことだと感じています。そこで、さまざまな色をテーマに曲を作り、ピアノ一台でレコーディングしました」
ピアノでの表現力が明らかに増した。
「フォルテシモでも、轟くような響きだったり、情熱的だったり。または、濃い赤だったり、鮮やかな赤だったりを表現できるようになったと感じています」
その『Spectrum』の曲を持って、ひろみは日本を出発。10月1日(火)からツアーをスタートした。
「さあ、いよいよツアーが始まるぞ!」
という気持ちがひろみに漲(みなぎ)ってきた。
「アルバムツアー初日はポーランド。9月30日(月)の午後に羽田を発ち、フランクフルト経由で、グダニスクに入りました」
10月1日からのコンサートでは、すべて新曲を演奏した。1曲目はアルバムと同じ「カレイドスコープ」。このタイトルは、日本語で“万華鏡”。ピアノ一台で演奏しているとは思えないほど色彩豊かな曲だ。
「グダニスクは初めて訪れる街でした。ポーランドではまだアルバム発売前で、お客さんたちは初めて私の音楽を体験します。グダニスクにようこそ、という歓迎の気持ちと初めての音楽を聴いた驚きが、ステージに伝わってきました」
翌日2日(水)にはグダニスクを離れ、ワルシャワ経由で3日(木)にロシアの首都、モスクワへ。4日(金)にモスクワ・コンサヴァトリー・グレート・ホールで演奏した。100年以上前に建てられたこのホールは、世界3大コンクールの一つ、チャイコフスキー国際コンクールが開催されている会場でもある。
「歴史あるホールです。楕円を描く2階席の上から、バッハやシューベルトの肖像画が見下ろしています」
開演前は調律師がピアノのコンディションを整える。そして、ピアニストは会場の響きを確認し、ピアノに自分の体をなじませていく。