
過去30年間の成果を集約したオディアン・ポープの新作
Odean’s List / Odean Pope
初体験の衝撃が大きかったがゆえに、アンダーレイテッドなままの現在も気になるミュージシャンがいる。
初リーダー作『オールモスト・ライク・ミー』の興奮が忘れられず、かれこれ30年近くもウォッチし続けているテナー・サックスのオディアン・ポープだ。電気ベース+ドラムスとのトリオで、重戦車さながらに突き進む同作の逞しい姿に新時代のヒーロー出現と、胸を躍らせたものだった。当時は明らかになっていなかった生年が、後に1938年とわかって、フリー・ファンク・ムーヴメントで名前を広めた時はすでに40代だったのだなと、遅咲きの実力者ぶりを再認識したのである。
近年もトリオ作をリリースしてきたポープの新作は、過去30年間の成果を集約した趣の仕上がりだ。1つは繰り返すがトリオの活動で、もう1つはサキソフォン・クワイア。今回新たに編成した3サックス+2トランペットのホーン・セクションは、ポープ盤に客演経験のあるジェームス・カーターを始め、ブランディング、スタッフォードと主流派黒人中堅の参加が新鮮だ。またジェフ・ワッツとの初共演を含めて、第一線で活躍する人材をオーガナイズする長老としての存在感を示す意図もあったと思う。
約2分間の#1でホーンズとスリー・リズムからなるバンドのキャラクターをコンパクトに紹介すると、続く#2ではハード・バピッシュなサウンドによって70年代に在籍したバンドのボスへのオマージュを捧げる。ワン・ホーン・トリオ#6に聴ける力強さと老獪さは、参加仕事を控えて自己の音楽を追求してきた70歳が達した、現在の境地と言うべきもの。コルトレーン・ヴァージョンで有名なバラード・スタンダード#4を、サーキュラー・ブリージングを交えながら、ベースとのデュオで10分以上演じる堂々とした吹きっぷりには、巨匠の風格さえ漂う。
ポープだけにとどまらない本作の収穫がカーターの吹っ切れたプレイだ。デビュー時からのファンがここ10年ほど感じていたカーターに対する歯がゆさ、こんなものじゃないだろうという期待感を、ここでは見事に賞賛へと変える本領を発揮している。バリトンの#3とテナーの#7は近年で最高の瞬間をとらえた、カーターの新たな名演と言いたい。なおブックレットにはアーチー・シェップが長文のライナーノーツを寄稿しており、同世代、同楽器、同じフィラデルフィアンとして過ごした50年代のエピソードを公開。ポープの初期キャリアが明らかになっている。
【収録曲一覧】
1. Minor Infractions
2. To The Roach
3. Phrygian Love Theme
4. Say It Over And Over Again
5. Little Miss Lady
6. Blues For Eight
7. Collections
8. Odean’s List
9. You And Me
10. Cis
オディアン・ポープ:Odean Pope (allmusic.comへリンクします)
ジェームス・カーター:James Carter(ts,bs)
ウォルター・ブランディング:Walter Blanding(ts)
テレル・スタッフォード:Terell Stafford(tp)
ジェフ“テイン”ワッツ:Jeff “Tain” Watts(ds)
2008年10月ニューヨーク録音