ストレスはある条件が重なると、命を奪う病の原因へと形を変える。それが「キラーストレス」だ。知らず知らずのうちにストレス過剰にならぬよう、ゾンビ体操などすぐできる対策法をお伝えする。
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ストレスがない、という人ほどストレスがある。
大阪樟蔭女子大学の名誉教授で精神科医の夏目誠さんは、米国の心理学者の研究を基にストレス度を測定する65項目からなる「勤労者向けライフイベント(生活出来事)表」を作成した。
生活に変化が起きた出来事に対して、生活者が適応に要するエネルギーを点数化。結婚によるストレス度を50とし、これを基準に、ストレス点数を導き出した。
「点数が高いほどストレス度が強い。ライフイベント表とは、日常で起きた出来事による変化に適応するエネルギー総量を点数化したものです」(夏目さん)
さっそく表を見てみよう。最も高い点数が、「配偶者の死」(83)、次いで「会社の倒産」(74)、「親族の死」(73)。意外だが、「長期休暇」(35)、「収入の増加」(25)など、前向きな出来事もストレスになるようだ。夏目さんは言う。
「あくまでも目安ですが、該当する項目の点数を足して、合計で300を超えると赤信号。ストレス過剰で、キラーストレスに要注意ということになります。260~299は黄信号。51~259は適度なストレスと考えてください」
心は常に平らでありたい。しかし、普段とは違うことが起きると、心だけでなく体にも負担がかかる。では、ストレスがキラー(凶器)とならぬようにするには日頃からどうしたらいいのか。
ストレス対策として、広まっているのが、呼吸をあるがままに感じながら、今ここにいる自分に意識を向ける瞑想法「マインドフルネス」だ。
これを治療に取り入れている「赤坂クリニック」を訪れた。「患者さんの多くが、働き盛りの30代です」という精神科医の貝谷久宣さんは、こう話す。
「キラーストレスという表現は臨床的にはピンときませんが、大きなストレスで、パニック発作を起こすことそのものが、キラーストレスと言っていいかもしれません。本人にとっては、死ぬかもしれないといった苦しみ。多いのが『時間』に追われるストレス。期限があり、いついつまでに~をせねばならない。そういった物理的なストレスと人間関係の悩み、この二つが危険要因です」
まだ見ぬ未来のことや、周りのことを気にしすぎる人は要注意だという。
『深い疲れをとる自律神経トリートメント』(主婦の友社)の著者で、鍼灸師の船水隆広さんは、ストレスケアや心の病に対する経絡治療を得意とする。船水さんがすすめるキラーストレス対策法は、次の五つだ。
その一 姿勢を正す
「オランウータンのような前かがみ立ちをやめ、姿勢を正しましょう。すると、きちんと呼吸ができるようになり、酸素が体内にしっかり入っていきます」
その二 ふくらはぎをもむ
「膀胱系の経絡が走っているふくらはぎをしっかりもむことです。足首の少し上にある三陰交というツボを押しましょう」
その三 耳のツボ押し
「耳上部にある神門というツボを押すとイライラが解消され、気持ちも落ち着きます。耳は回しもみをする感じでまんべんなく全体を」
その四 足裏のツボ押し
「湧泉と失眠という二つのツボを押しましょう(注1)」
その五 中指の爪をもむ
「中指は緊張をほぐす指。中指をもむだけでも十分効果がありますが、爪をぎゅっともみましょう。薬指もいいですよ」
なかなかストレスが発散できない人もいるだろう。深呼吸も、瞑想もツボ押しも挑戦できない人は、日常生活のこんな心がけはどうだろう。「血管」を強くする食事と運動と睡眠だ。心臓や血管、血圧など循環器系のエキスパートである池谷医院院長の池谷敏郎さんに話を聞いた。「キラーストレスの予防は、何より、しなやかで強い血管を作ること。血管力を低下させる高血圧・高血糖・高コレステロールの3大要素をコントロールするのです」。中でも、気を付けたいのが「食後高血糖(血糖値スパイク)」だという。健康診断時の血糖値は正常の範囲内でも、食後に急激に血糖値が上がる人のことを言う。
「予防するには、オメガ3脂肪酸を含んだ良質のオイルを積極的に取り、水溶性の食物繊維や質の良いたんぱく質を取る。適度な睡眠と、無理のない運動をする。『ゾンビ体操』がいいですよ(注2)。下半身はその場でジョギングか足踏み。上半身は両手を下にだらっと垂らし肩を大げさに振ります。1分間走って30秒ウォーキング。これを3回繰り返します。毎食20~30分後に行えば食後の血糖値の上昇を抑えられます。トイレに行く時にゾンビ体操するのもいいですよ」(池谷さん)
池谷さんは付け加える。
「なるべくストレスをためずに、嫌なことがあってもすぐに流すことです。海に向かってバカヤローなんて叫ぶくらいの感じで生きるのがいいんです」
自分を軸に考えられない。そういう人は、自分の大事な人の顔を思い浮かべると良いだろう。
前出の貝谷さんはこう話す。
「何より、夫婦や大切な人と、互いに庇(かば)いあって生きることです。大事な人がそばにいる人というのは、強いのです」
(本誌・大崎百紀)
(注1)「湧泉」のツボは足裏の真ん中、土踏まずの少し上、足の指を曲げたときにくぼむところ。「失眠」のツボはかかと中央。
(注2)「ゾンビ体操」とは、両手を下にだらっと下ろして大げさに肩を振りながら足踏みをする体操。YouTubeの「池谷敏郎Official Channel」で詳しいやり方が紹介されている。
※週刊朝日 2019年10月4日号