日本の歌謡界の歌手がスタンダード・ナンバーを唄う
Encore~Jazz Standard / Junko Akimoto
その歌声を初めて聴いたのは2年前、テレビの歌番組だった。巧いという評判は知っていたが、日本にまだこんなに巧い女性歌手がいたとは、とただただ驚くばかりであった。美空ひばりや江利チエミは別格としても、青江三奈のようにジャズを歌っても優れるシンガーが日本の歌謡界には存在した。かねてから秋元順子がその系譜を継承する実力者になるのではないか、と思っていたのである。
2006年以来3枚のリーダー作をリリースしてきた秋元が、今回初めてスタンダード・ナンバーを集めたジャズ・アルバムを完成させた。過去3作はすべて秋元のために書かれたオリジナル曲を主体としており、その意味で歌謡界の歌手というポジションは揺るがなかったと思う。本作が生まれるきっかけとなったのは、コンサート会場のアンケートで、「秋元順子のジャズ・アルバムはありますか?」との質問が一番多いことだったという。広く世間に実力者と認知された今、新しいアルバム・コンセプトに取り組むタイミングが訪れたと判断したのではないだろうか。作品名の由来はもちろんファンの要望に応えて、だ。
オープニングを飾るラテンの名曲#1はまず英語で歌い、続いてポルトガル語でも歌う。ストリングスが楽曲のムードを高め、この1曲だけで秋元の外国語歌唱が“プロフェッショナル”であることに納得させられる。アルバムの全体的には英語を主体としながら、日本語のヴァースから始まってテーマ以降は英語にスイッチする#3や、ポルトガルから日本語にリレーする#5も盛り込んで、工夫を凝らしたのがいい。発音に関して言えば、#7が好例。
数多くの邦人ジャズ・ヴォーカリストがレパートリーとするこの曲を、決して肩の力を入れずスムーズに聴かせる安定感に魅了される。この自然体の表現は、ジャズ専門のプロでもなかなか出来ないものだ。ピアノのみの伴奏によるDVD作収録曲#6やベースとのデュオを含む#10でも、秋元の歌唱力が光る。アレンジャーは現秋元バンドの中村力哉(p)ら、過去3作とは異なる3名が参画しており、アルバム・コンセプトに沿った適材を起用。編成はトリオを基本として曲ごとにテナー・サックス、トランペット、ギター、ヴィブラフォン、アコーディオンをフィーチャーし、ヴァラエティ豊かなプログラムを企図した。これまでに築いてきたイメージを損なわない秋元ファン対応仕様であるばかりでなく、ジャズ・ヴォーカル好きをも唸らせる仕上がりなのが素晴らしい。ファン層の拡大が間違いなしの第4弾である。
【収録曲一覧】
1. Besame Mucho
2. Misty
3. Autumn Leaves
4. After You’ve Gone
5. Mamma
6. Summertime
7. Lover Come Back To Me
8. Les Parapluies De Cherbourg
9. Bei Mir Bist Du Schon
10. Exactly Like You
11. Love Is A Many Splendored Thing
秋元順子:Junko Akimoto(vo)(allmusic.comへリンクします)
2010年3月24日リリ-ス