国立大学病院長会議の試算によると、1病院あたりの平均の補填不足は、17年度で約1.3億円にもなる。10%への増税で、不足額はさらに膨らみそうだ。
消費増税によって、大病院が最先端の医療機器を買い控える可能性もある。
病院の経営は全体的に苦しい。日本病院会や全日本病院協会などが実施している病院経営定期調査(有効回答数1111病院)によると、18年6月における経常赤字の病院は53.8%。半分以上が赤字経営に陥っている。
深刻さを増す病院経営だが、背景には医師不足がある。日本の医師数は約32万人、多くが先進国であるOECD(経済協力開発機構)の加盟諸国の平均医師数は約44万人で、約12万人も少ない。日本の人口当たりの医師数は、世界的にみて少ないことがよくわかる。
『本当の医療崩壊はこれからやってくる!』の著者で、NPO法人・医療制度研究会の本田宏副理事長が警告する。
「医療費抑制が至上命令の厚生労働省によって、医師不足は慢性化しています。医師を減らせば医療費を縮小できると思っていて、安全な医療態勢の確保は十分考えられていません」
医療費が増えれば国が傾くという「医療費亡国論」はいまだに根強い。国の医療費抑制策が医師不足を招き、しわ寄せが医療現場にきている。
医師のうち6割に当たる約20万人が、民間や国公立の病院などで働く勤務医だ。勤務医は過酷な長時間労働を強いられている。
当直日は30時間を超える連続勤務も当たり前。午前8時から外来診察や入院患者の回診などをして、午後5時から翌朝午前8時まで当直勤務をこなし、さらに午後5時まで勤務することが常態化している。
医師の当直勤務は、建前上は仮眠が取れることになっている。しかし、救急対応や入院患者への処置に追われ、眠る時間は削られがち。約4割の医師が当直日の平均睡眠時間が4時間以下だとアンケートに回答している。
こうした過酷な勤務は、私たち患者にも危険を及ぼす。日本外科学会が12年に会員の外科医に、「医療事故・インシデント(ひやっとしたケース)」の原因をアンケートしたところ、「過労・多忙」が81.3%で断トツ。「当直明けに手術に参加したことがあるか?」との質問には、「いつもある」が36%、「しばしばある」が25%という結果だった。
勤務医の労働組合「全国医師ユニオン」の植山直人代表が説明する。
「長時間労働は、酒気帯び運転以上に安全上のリスクが高まるという研究があります。米国では州によって異なりますが、夜勤などで十分に睡眠が取れていない医師の手術を、患者が拒否できる権利があります。米国でも30時間を超える連続勤務を行っていましたが、16時間までに制限したことで医療過誤を大きく減らしたというデータがあります。日本では慢性疲労による医療事故が増えている可能性があるのです」
群馬大学病院で肝臓がんの腹腔(ふくこう)鏡手術などを受けた患者8人が死亡する事故が起きた。調査委員会が16年に発表した報告書では、執刀医の過密な勤務日程が明らかとなった。(本誌・岩下明日香、亀井洋志、多田敏男)
※週刊朝日 2019年9月20日号より抜粋