私たちの健康を守るはずの病院が揺らいでいる。運営コストの増加などで赤字の病院は5割に達する。倒産件数は高水準で、消費増税もあって経営は厳しい。医者は人手不足で、睡眠時間を削って働く。ただ働きさせられるケースや過労死も相次ぎ、まさに“残酷物語”だ。
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まずは病院の経営がどうなっているのか。
信用調査会社の帝国データバンクによると、今年1~8月に倒産した医療機関は30件に上る。内訳は病院7件、診療所が16件、歯科医院が7件。このままでは年間45件に達するペースだ。昨年は2010年(41件)以来、8年ぶりに40件に達したが、今年はそれを上回る勢い。
同社情報部の阿部成伸さんが解説する。
「昨年は歯科医院の倒産が多く、40件のうち23件を占めていました。今年は病院と診療所の倒産が急増しており、医療界全体に与える影響は深刻です」
8月には、三田佳子さんら芸能人や政財界のVIPらが利用していたことで知られる心臓疾患専門病院「大崎病院東京ハートセンター」が約42億円の負債を抱え、経営破綻(はたん)した。
地方の病院も深刻な状況だ。昨年、医療機関で最大の倒産となったのは、福島県いわき市の医療法人翔洋会。「磐城中央病院」や「小名浜中央病院」などを経営していた。大規模な設備投資で事業を拡大したが、計画どおりに患者が増えず資金繰りが悪化した。負債は約61億円に上った。
「医療機関の倒産の原因は、放漫経営や設備投資の失敗など、それぞれの問題があります。地方の病院に一般的に言えることは、人材確保に頭を悩ませていること。医師や看護師が足りないため病床の稼働率が低下し、収益の悪化につながっているのです」(阿部さん)
医療サービスや薬の値段は、診療報酬制度によって細かく決められている。病院の経営が苦しいからといって、自主的に値上げすることはできない。
10月からの消費増税も重くのしかかる。
医療機器やガーゼなどの消耗品は、買うときに消費税をとられる。公的保険の医療は非課税のため、病院は患者らにそのまま転嫁できない。消費税相当分は診療報酬に上乗せされて後から補填(ほてん)される仕組みだが、これがうまく機能していない。高価格の医療機器などを購入したときに支払う消費税分は、事実上、病院側の持ち出しとなっている。最先端の医療機器をそろえる大病院にとっては、経営を圧迫する大きな要因だ。