
期待を抱かせる白人テナー・サックス奏者のデビュー作
Boiling Point / Brandon Wright
日本では無名のテナー・サックス奏者を紹介したい。
ブランドン・ライト、28歳の初リーダー作だ。キャリアを知ればライトがじっくりと力を蓄えて、本作に至ったことがわかると思う。ミシガン大学とマイアミ大学で学び、2004年に北米サックス・アライアンス・ジャズ・コンペティションで優勝。2005年にはグレッグ・フィールド・オーケストラの一員として「富士通コンコード・ジャズ・フェスティヴァル」に来日経験がある。
ヴィレッジ・ヴァンガード・ジャズ・オーケストラ、マリア・シュナイダー、チコ・オファリル、ジョン・フェチョック、ミンガス・ビッグ・バンド等、大編成での演奏経験が豊富であり、しかもタイプの異なるビッグ・バンドに在籍している点で、実力のほどがわかるはずだ。
影響を受けたミュージシャンにソニー・ロリンズ、ジョン・コルトレーンからブランフォード・マルサリス、ジョシュア・レッドマンまで数多くの著名テナー奏者を挙げており、メインストリーム・ジャズの財産を栄養分として吸収しながら自己のスタイルを築いたことも明らかである。
この初リーダー作のために、ライトは全8曲中、5曲のオリジナルを用意した。第一印象を決定づけるオープニング・ナンバーは、マッコイ・タイナーの楽曲を想起させるモード系のアップ・テンポ。敬愛するマイケル・ブレッカー譲りのテナー・プレイは頼もしく、広くジャズ・ファンにアピールできる仕上がりだ。
バラードの#2はジョシュア・レッドマンに通じるマナーに、新世代らしいセンスを反映。トランペットが抜けたワン・ホーンの#4はアグレッシヴな演奏で、自己アピールする。以上は2009年度ASCAPヤング・ジャズ・コンポーザー賞を受賞したライトの作曲力を実証した好例だ。
本作の好感度を上げ、秀作たらしめているのが共演者の貢献である。その象徴と言える自作曲#6は、アレックス・シピアギンとデヴィッド・キコスキの熱演が聴きもの。彼らが本気モードになっている理由は、おそらく前述のビッグ・バンドで同僚関係だったことを踏まえての友情出演だから、なのに違いない。
エリック・アレキサンダー~グラント・スチュワートという白人テナーの系譜に続くのがこの男、との期待を抱かせるデビュー作だ。
【収録曲一覧】
1. Free Man
2. Drift
3. Odd Man Out
4. Boiling Point
5. Here’s That Rainy Day
6. Castaway
7. Interstate Love Song
8. You’re My Everything
ブランドン・ライト:Brandon Wright(ts) (allmusic.comへリンクします)
アレックス・シピアギン:Alex Sipiagin(tp)
デヴィッド・キコスキ:David Kikoski(p)
ハンス・グラウィシュニク:Hans Glawischnig(b)
マット・ウィルソン:Matt Wilson(ds)
2009年10月NY録音