国際芸術祭「あいちトリエンナーレ 2019」の企画展「表現の不自由展・その後」が、抗議や脅迫などで中止に追い込まれた。憲法が保障する表現の自由をどう守るか。ファクスで脅迫文を送ったとして愛知県警は8月7日に男性を威力業務妨害容疑で逮捕したが、問題は警察の捜査だけでは解決しそうにない。
【写真】「表現の不自由展・その後」について説明する津田大介芸術監督
今回の問題では政治家の発言が注目された。慰安婦を表現した「平和の少女像」の展示中止を河村たかし・名古屋市長らが求め、結果的に抗議などをあおる形になったためだ。事務局には1千件を超える電話が殺到し、職員が対応に追われた。「撤去をしなければガソリンの携行缶を持ってお邪魔する」などと、京都アニメーション放火事件を思わせるような“テロ予告”まであったという。
河村市長は8月5日の定例会見でこう語った。
「表現の自由は憲法21条に書いてあるが、なにをやってもいいという自由ではなく、一定の制約がある。これは日本人の心を踏みにじるようなものだ。名古屋市、愛知県が従軍慰安婦の存在を認めたと見られるような展示は差し迫った危険だった。市民の血税でこれをやるのはいかんでしょ」
これに対し、芸術祭の実行委員会会長を務める大村秀章・愛知県知事は、河村氏の発言を「検閲ととられても仕方ない。憲法違反の疑いが濃厚と思う」と批判し、次のように話した。
「行政や役所など公的セクターこそ表現の自由を守らなければいけないのではないか。自分の気に入らない表現でも、表現は表現として受け入れるべきだ」
中止を判断した理由については、「安全安心を第一に考えた」と説明した。
これまでの政府見解は従軍慰安婦問題で多くの女性の名誉と尊厳を傷つけたことを公式に認め、反省と謝罪の気持ちを表明している。企画展の中止を受けて、作品撤去・中止に反対するインターネット上の署名者も2万人を超えたという。
8月6日には、芸術祭に参加するアーティスト72人が中止に抗議し、「展示は継続されるべきだった」とする声明を出した。
「作品を鑑賞する人びとに危害が及ぶ可能性を、私たちは憂い、そのテロ予告と脅迫に強く抗議します」
「政治的圧力や脅迫からは自由である芸術祭の回復と継続、安全が担保された上での自由闊達(かったつ)な議論の場が開かれることを求めます」
芸術監督を務めるジャーナリストの津田大介氏は声明に対し、「本来は作品に焦点が当たらなければならない局面で政治問題化させたことの責任を痛感しています」とツイートし、謝罪した。