行動経済学では、「心の会計」という、人のお金に関する行動の「癖」についての研究があります。簡単に言えば、人は頭の中で一度「仕分け」をしてしまうと、その後は気楽に使ってしまうというものです。
例えば、350円のコーヒーを飲もうとしたときのことを思ってください。財布に現金1万円が入っているだけのときと、1万円分が入金されている交通系のカードを持っているときの心持ちの違いを想像してみてください。合理的に考えると、同じ350円のコーヒーを買うので負担は同じですが、それぞれにずいぶんと心持ちに違いがありませんか。
これは1万円をプリペイドカードに入れたときに、人はすでに頭の中でこの1万円を消費に回していると「仕分け」していることで、実際にコーヒーを買うことがそれほど負担ではなくなってしまうのです。またこうした「癖」は行動バイアスと呼ばれて、ほとんどの人間が大なり小なり持っているものです。そう、人は合理的に行動できないということです。
課題は、それが高齢者の過度な消費につながってしまわないかということです。キャッシュレス社会の到来は避けられない事態です。でも、その流れに翻弄されないように、消費の考え方をしっかりと持ち続けることが大切になります。
※週刊朝日 2019年7月26日号