


年金への不信感が増すこのごろ。人生100年時代は本来素晴らしいことなのに、長生きリスクばかり注目される。そんな不安をはね返すように、年齢に関係なく新しいことに挑戦したり、自分の道を究めようとしたりする人たちがいる。
【写真】宮崎空港に展示された藤城清治さん原画のステンドグラス
■90歳過ぎてからの新挑戦「メルヘンを超えたリアルへ」
ひとり目は日本における影絵の第一人者である藤城清治さん。光と影を操った独創的な色彩の作品で知られる。
皇室の方々もたびたび作品を鑑賞している。2018年10月には当時の皇太子さまと雅子さまが、東京・銀座の個展をお忍びで訪れた。雅子さまは02年に、愛子さまと母子で初めて御所から私的外出した際にも個展に出向いている。当時、雅子さまは藤城さんに、「(愛子さまに)一番美しいものを見せたい」と語ってくれたという。
年齢を重ねても新しいものに挑戦し続けている。
宮崎空港に、日向神話をもとに原画を描いた巨大ステンドグラスが5月に登場した。幅21メートル、高さ3メートル、ガラスピース約1万3千個という大作だ。完成までに予定よりも1年ほど長くかかっている。
「昨年4月には完成させる予定でした。今の技術ならガラスの上に黒い線と色を焼き付ければ、ステンドグラスらしいものがつくれてしまう。でも伝統的な技術でやりたくて、ガラスを切るだけでも1年かかった」
空港は明るい空間で、これまでの作品とは見る環境が全く異なる。90歳を過ぎて椎間板(ついかんばん)ヘルニアなどを患い、痛みのなかでの挑戦だった。リハビリのため、一人で1万歩の散歩が日課だ。
「絶対に倒れないと思って歩いています。大体みんな家の中でふっと気を緩めたときに転ぶから、絶対に緩めないようにしている」
原点には戦中・戦後の出来事がある。慶応大学のときに海軍予備学生として入隊し、千葉県で沿岸防備につく。娯楽が制限される中、勤労奉仕の工員らに人形劇を披露していた。
「小さな人形が生きているように動くのがおもしろがられてね。見るほうも、やるほうも真剣で熱気があった。ある意味で一番激動というか、悲惨な時代だったけれども、熱中していた」