大センセイと腕白仲間がどんなにからかっても、

「やめてよ」

 と小さな声で言うだけで、まったく反撃をしてこなかった。それをいいことに大センセイ、彼女を執拗にからかっていたのだ。そう、主観的にはいじめではなくからかいであり、あくまでも遊びの一環だった。

 当然ながら、遊びには快感が伴う。彼女をからかうことに、大センセイ、甘い痛みが混ざったような喜びを覚えていた。だから、やめようなどとはツユ思わなかったのである。

 認めにくいことだけれど、小学生の大センセイは嗜虐性を持っていたと思う。蝶の羽をむしりバッタの脚をもいで喜んでいたのと同じ嗜虐性で、人間であるAさんに意地の悪い言葉を浴びせていたのだ。

 なぜそんなことをしたのかはわからないが、そうした性向は、前向きに努力する性格だったことや常に教師に褒められる存在であったことと、心の深いところで繋がっていた気がする。

 写真の中のAさんは、憂鬱そうな表情を浮かべている。なにしろ毎日登校する度に嫌がらせを受けていたのだ。きっと彼女にとって大センセイは、悪魔のような存在だったに違いない。

 小学校を卒業してから、Aさんとは一度も会っていない。いまこの瞬間を、彼女はいったいどこで、どんな表情で過ごしているだろうか。そして自分の本質は、あの頃から変化したのだろうか……。

 引っ越しの準備は、なかなか捗らない。

週刊朝日  2019年6月28日号