

落語家・春風亭一之輔氏が週刊朝日で連載中のコラム「ああ、それ私よく知ってます。」。今週のお題は「ジューンブライド」。
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八五郎「こんちは。隠居さんに聞きたいことがありましてね」
隠居「なんだい?」
八「あっしの姪っこが今度嫁ぐことになりまして、なんでも『ジューンブライド』だって喜んでんの。『ジューンブライド』ってなんです? 美味いの?」
隠「食べものじゃないよ。直訳すれば『六月の婚礼』だ。『六月の花嫁』ってな幸せになれるらしいね」
八「あー、聞いたことあります!なんでも西洋の『ヘラ』って女神様が六月の守護神で、結婚を司る女神だから『六月の花嫁』は幸せになれるとか……そういうことですか?」
隠「……ああ……(知ってるのね)それね。それは外国の話。ここは日本だから関係ない!」
八「違うんですか?」
隠「こんな日本のジメジメした梅雨時に当たり前に所帯をもって幸せになれるわけないだろ!?それは日本のブライダル業界が景気の悪い六月をなんとかしようと西洋の言い伝えを利用した戦略だよ。日本にはそれとは違う昔からのれっきとした『六月の花嫁伝説』があるんだよ」
八「伝説? そらなんです?」
隠「こないだまで吉原に『六月の花嫁』っていう店名のソープランドがあったろ?」
八「あー、知ってます! 高級店で女の子がウェディングドレスで現れるとか」
隠「そもそもあれは江戸時代から続く老舗中の老舗だ」
八「江戸時代!? じゃ廓とか花魁とか……その頃からウェディングドレス?」
隠「な訳ないだろ。昔だもの、当然……白無垢に角隠しだよ」
八「あ、やっぱり婚礼衣装なんだ」
隠「角海老・三浦屋なんてなよくある花魁の格好だが、この店は競合店と差別化するために花魁に花嫁衣装を着せたんだな。『コスプレ』の走りだね。この店には『水無月』という全盛の花魁がいたな。この水無月の白無垢姿が艶やかで大変な人気。毎夜、御大名やら大家の旦那衆からの指名で引っ張りだこだ」