リーブ・プレイズ・ザ・ブルース・ア・ラ・トレーン/デヴィッド・リーブマン
リーブ・プレイズ・ザ・ブルース・ア・ラ・トレーン/デヴィッド・リーブマン
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還暦を迎えたリーブマンが、コルトレーンのブルースを奏でる
Lieb Plays The Blues A La Trane / David Liebman

 還暦を迎えてからのリーブマン(1946~)は、レコーディング活動に拍車をかけている印象だ。しかもオーネット・コールマン、マイルス&ギル、アレック・ワイルダー、クルト・ワイルなどのソングブックを、好んで制作のテーマに掲げてきた。サックス奏者としての影響関係について誰もがすぐに想起するように、リーブマンはジョン・コルトレーンとの切っても切れない間柄をキャリアの柱としている。日本のファンにはウエイン・ショーターと壮絶なバトルを繰り広げた来日ライヴ『トリビュート・トゥ・ジョン・コルトレーン』が語り草。同作を始め折々にコルトレーン追悼作を発表し、この分野では自他共に認める第一人者だ。

 多彩なプロジェクトを展開するリーブマンにとって、新旧オランダ人との本トリオもその1つ。ワイルやワイルダーをレパートリーにツアーを重ねてきた2008年、ベルギーの小さなジャズ・クラブに行き着いた時に、リーブマンが選んだのはコルトレーンとブルースだった。初演収録作『カインド・オブ・ブルー』でコルトレーンがテナーを吹いたマイルス作曲の#1では、ソプラノをフィーチャー。60年代にブルースの表現領域を拡大したコルトレーンの研究者であるリーブマンは、聴けばすぐにそうだと分かる独自の語法を確立しており、コルトレーン譲りのシーツ・オブ・サウンドを通じて燃え上がりながら、60年前の素材の現代性を表現する。

 続いてはコルトレーンのオリジナル曲が3連発。『インプレッションズ』からの#2はモーダルなミディアム・テンポで、当時のNYのクラブ・パフォーマンスと錯覚させるような空気感を醸し出す。これまで保守派ヴェテランのイメージが強かったイネケが、エルヴィン・ジョーンズを思わせるドラミングでバンドに貢献するのも、雰囲気作りの面で大きい。

 #3はポール・チェンバースに捧げた曲であることに因んでか、ベースが先発のソロをとり、ドラムスがそれに続いて、中盤からはテナーがど真ん中を疾走。そのままエンディングへと雪崩れ込む。

『コルトレーン・ジャズ』からの#4はスローな中にずっしりとした重みを感じさせるサウンドで、本作中最長の15分強がまったくだれない。

 コルトレーンとの唯一の共演作でデューク・エリントンが提供した#5は、師がリーブマンに降臨したかのようなテナーの咆哮に圧倒される。ピアノレス・トリオの編成によって、さらにサックスの存在感を前面に打ち出した強力ライヴ作だ。

【収録曲一覧】
1. All Blues
2. Up Against The Wall
3. Mr. P.C.
4. Village Blues
5. Take The Coltrane

デヴィッド・リーブマン:David Liebman(ss,ts) (allmusic.comへリンクします)
マリウス・ビーツ:Marius Beets(b)
エリック・イネケ:Eric Ineke(ds)

2008年4月ベルギー録音