SNSで「売文で糊口をしのぐ大センセイ」と呼ばれるノンフィクション作家・山田清機さんの『週刊朝日』連載、『大センセイの大魂嘆(だいこんたん)!』。今回のテーマは「非正規」。
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昨年の冬のことである。
大センセイ、愛妻家であるから、妻太郎にムートンブーツなるものを買ってあげようと思ったんである。
なんでも、UGGというムートンブーツは一度履いたらやめられないほど暖かいと人が言うので、そのUGGとやらを買ってあげたくなったのだ。
ちなみにUGGは、「アグ」と読む。大センセイ、最初「ウッグ」とか読んじゃって赤っ恥をかいたが、どうしてブランド名というものは、どれもこれも不親切にできているのかと思わずにはいられない。まぁ、本題とは関係ないことだが……。
気を取り直してUGGを売っているという銀座のデパートに行ってみると、UGGは想像していたよりもはるかに高額であった。大センセイが持参した予算の、ほぼ二倍である。
「くっそー、ゾロ品でも買って帰るか」
とヤケを起こしかけたが、
「待てよ、そもそもデパートなんぞに買いに来たのが間違いじゃないのか。ネット通販があるではないか。いまや、何でもネットで買った方が安いのだ。なにしろ、店舗費用が乗ってないんだから」
などと柄にもないことを思いつき、家に帰ってパソコンの検索ウインドウに「UGG」と入力してみたのである。すると、出てくるわ出てくるわ。デパートの三分の一ぐらいの値段で、いくらでも売っている。
「やっぱ、ネットだな」
日頃のIT嫌いはどこへやら、大センセイ、血眼になって底値を探った。すると、気になる言葉が目についた。安いUGGにはみんな、「並行輸入」と書いてあるんである。
そこで今度は、「UGG並行輸入」で検索をかけてみると、「非正規品」「偽物」といった不穏な言葉が次々とパソコンの画面に浮かんでくるではないか。
なんでも並行輸入の非正規品には偽物が多く、外箱からしてお粗末だという。ムートンの毛も羊毛ではなく化繊を植えている場合がほとんどで、ハサミで切り取ってライターで火をつければすぐに判定できる。羊毛なら燃えカスが残らないが、化繊は黒い燃えカスが残るというんである。