女として生きていると、ひきこもる息子(兄や弟)の話は、日常的な物語として語られる。特に70代~80代女性たちの息子ひきこもり率は突出している。専業主婦であることを求められた世代で、子育てに関わらなかった企業戦士の夫と暮らし、息子を溺愛してきた女性も少なくない。“母として非はなかったはず”なのに「俺がこうなったのは、おまえのせいだ」と20年以上にわたり息子に罵られている女性がいる。夫は「お前の育て方の問題だ」と妻を批判し、彼女は抗うつ剤が手放せない。昼は部屋から出ず夜になると出かける息子と暮らす母親もいる。「下着でも盗んでいないか心配で、ついていったことがある」と言っていた。「外に出して迷惑かけるより、こうやってご飯を与えて、家に大人しくしてくれていたほうがまだいい」と言う母親もいる。
「ひきこもり」という言葉が社会に認知されてから20年以上経つ。こうなると分かっていた。時が経つほど深刻化し、複雑化していく問題であると分かりながらも放置され、問題は深まりつつ、より当事者は孤立していった。ひきこもりの20代が、気がつけばもう40代、50代になった時代なのだ。
何者か、全く分からない男が起こした最悪の凶行。その背景にあるものが何か。女が語る残酷な物語から、社会が見える。男の犯す事件の背景に、女の顔がいくつも、ある。
※週刊朝日 2019年6月14日号