北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。作家、女性のためのセックスグッズショップ「ラブピースクラブ」代表
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イラスト/田房永子
イラスト/田房永子

 作家・北原みのり氏の週刊朝日連載「ニッポンスッポンポンNEO」。今回は「ひきこもり」について。

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 数日間日本を離れていたときに男が小学生らを襲った事件を知った。詳細を知らずに帰国した翌日、男が51歳だと知り、思わず叫ぶように唸った。動揺したのだ。これまでの通り魔殺人事件から、加害者のイメージが20代男に固定されていた自分に気がついた。

 犯人は長年ひきこもっていて、彼を特定する写真は子ども時代のものだけで、彼を知るのも小中学校の同級生だけだった。他者に記憶されることなく、まるで空白にみえるこの51歳の男の人生。それなのに私は、この男とどこかですれ違ったことがある、そんな錯覚が頭から離れない。

 今年3月、内閣府が「ひきこもり」調査結果を発表した。40代以上のひきこもりの7割以上が男性で、その期間は7年以上が半数を占めている。また40代以上のひきこもりが、30代以下よりも多いことが分かった。今、ひきこもりは完全に中高年男性の問題なのだと、改めて気がつかされる数字だった。

 ひきこもりと凶悪事件の因果関係を言うつもりはない。また、ひきこもりには女性もいる。そもそも「女は家へ」という価値観の強い社会では、女のひきこもりそのものが「問題」になることもないだろう。とはいえ、子ども時代の写真しか出てこない男の人生を「他人事」と思えない人は、今の日本社会に少なくないのではないか。

 実際、私には何人かの知人男性の顔が思い浮かぶ。今の顔ではなく、子ども時代の彼らの顔だ。同時に、彼らの母親たちの顔も思い浮かぶ。いやむしろ、今回の事件で真っ先に私が思い浮かべたのは、ひきこもりの息子と暮らす母親やその姉妹の顔だった。

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