ちば:才能なんでしょうかねえ。世界中にコミックというのはあるんですけど、子どもが読むもの、女の子が読むもの、大人が読むものといったジャンルがあるのは日本だけなんです。最近気がついたんですけど、日本にはすごい祖先がいるんです。鳥羽僧正みたいな。
林:「鳥獣人物戯画」ですね。
ちば:紫式部みたいに、世界に小説というものがなかった時代に男女の恋愛の物語を書いたり、絵巻物にして楽しんだりする祖先がいた。日本人はそういう独特のDNAを持っていると思うんですね。
林:はい。
ちば:鳥羽僧正は900年くらい前の人だけど、「鳥獣人物戯画」は、カエルとウサギというぜんぜん大きさが違うものを同じ大きさにして、カエルがウサギの耳をつかんでブン投げて、「ワハハ」と笑ってるような吹き出しみたいなものも描いてるんです。葛飾北斎は200年くらい前の人ですけど、漫画を描いてますよね。
林:北斎漫画ですね。
ちば:町のおかみさんが裾をはだけて洗濯してたり、魚売りがネコに魚を取られちゃったり、そういう日常をいっぱい描いて、それを絵巻で見せてるじゃないですか。絵巻物というのは、端からクルクル巻きながら見ていくと、時間がたって季節が変わって、ストーリーがあるんですよね。そういう表現は日本人独特なんだと思うんです。
(構成/本誌・松岡かすみ 編集協力/一木俊雄)
※週刊朝日 2019年6月14日号より抜粋