タンジェント/トリッシュ・クラウズ
タンジェント/トリッシュ・クラウズ
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可愛らしいアルバム・ジャケットの印象で判断したら、大きなしっぺ返しをくらうぞ
Tangent / Trish Clowes

 イギリスの若手女性サックス奏者を紹介したい。トリッシュ・クラウズは4歳からクラシック・ピアノを始め、クラリネットを習得後、ジャズとサックスに出会った。王立音楽院でジャズを専攻し、イアイン・バラミーに師事しながらケニー・ホイーラーやスタン・サルツマンと共演。幼少期から作曲が大好きだった才能は、学生時代にジャズ以外のジャンルにも親しんでさらに開花した。

 本作は2008年結成のセクステット“タンジェント”をアルバム名にしたクラウズの初リーダー作だ。それを踏まえると一見、自己のグループを全面的にアピールする内容と思いきや、クラウズはそれだけにとどまらないアイデアを盛り込んでいる。

 作曲と即興を両立したアンサンブル、というコンセプトを実現するため、全曲を自身が作曲。うち3曲はフリー・インプロヴィゼーションで、ギター、トランペット、ドラムスとの小編成による短いインタールード風の演奏。これらを点在させることにより、メリハリのついたアルバム全体の流れを生みだした。#1がオーケストラ入りの楽曲だと知った時点で、単なるセクステット作ではないことがわかる。

 オーヴァーチュアーと位置付けられるトラックに続いて、#2は王立交響楽団団員のストリングスが加わり、一部のメンバー紹介を兼ねた内容。この1曲をとっても、ソロイストのアドリブとアンサンブルの関係において、作曲と即興が両立した形になっており、クラウズの音楽的企図が伝わってくる。

 作曲家として優れた才能が重要であるのはもちろん、本作を聴けば誰もがクラウズのテナーサックス奏者としての新人離れした個性に驚くはずだ。オーケストラのシンフォニックなサウンドとの調和を意識したプレイは、ウエイン・ショーターやジョー・ロヴァーノと関連するもので、クラウズのジャズ・キャリアも明らかになる。さらに前述のバラミーとの師弟関係が、どのパターンにもはまらないスタイルの源泉になったと思われる。現在同国で最も期待され、評価を得ている新世代ピアニスト、グウェイリム・シムコックがゲスト参加とプロデュースで支援しており、大器を証明した格好だ。可愛らしいアルバム・ジャケットの印象で判断したら、その本格派の“本物ぶり”に大きなしっぺ返しをくらうだろう。なお現在アマゾンではMP3のみの販売と表示されているが、デジパックのCDも入手可能だ。

【収録曲一覧】
1.Prelude To A Sketch
2.Search
3.Chalk
4.Dreamer
5.Duet
6.Blues For Frisell
7.The Master And Margarita
8.Coloured Eye

トリッシュ・クラウズ:Trish Clowes(ts) (allmusic.comへリンクします)
グウィリム・シムコック:Gwilym Simcock(p)
2010年3月ロンドン録音