ロン・カーター・グレイト・ビッグ・バンド
ロン・カーター・グレイト・ビッグ・バンド
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新境地を開いた意欲作
Ron Carter's Great Big Band

 今年で74歳になる大ヴェテラン・ベーシストの新作である。先日のビル・フリゼール・トリオ@丸の内Cotton Clubは、カーターがお目当てと思しきファンが多数認められた。かつてはTVコマーシャルに出演し、日本での人気は絶大。これは豊富なキャリアを誇るカーターにとって、初めてのチャレンジとなるコンセプトが注目される。

 意外なことに、カーターの個人名義によるビッグ・バンド作はこれまで制作されたことがなかった。参加作でも1960年のギル・エヴァンス『アウト・オブ・ザ・クール』以来、半世紀ぶりの録音だったという。本人が興味を持たなかったのがその理由だが、それにしてもこの無縁ぶりには何か特別なこだわりがあるのか、と思ってしまう。

 制作にあたってカーターが考えたアルバム・コンセプトは、「スモール・グループのような感覚で演奏できるビッグ・バンド」。大編成サウンドであっても、ベースとピアノ・トリオがしっかりと聴こえるサウンドを追求した。これはカーターらしい。リーダーだからといってベース・ソロを全面的にフィーチャーするのではなく、全体のバランスを配慮しながらバンドの一員としてサウンドをリードすることに留意したようだ。

 このイメージを実現するために、カーターは70年代から近年までのリーダー作に起用している編曲家ボブ・フリードマンに、アレンジと音楽監督の重責を依頼した。カーターのイメージに沿ったフリードマンのプロの仕事が、本作で重要な役割を演じたことは見逃せない。選曲に関してはジャズ・オリジナルが多数を占めており、それらが作曲家へのトリビュートも示していることが感じられて、カーターの想いが重なる。しかもW.C.ハンディ、デューク・エリントン、ジェリー・マリガン、ジョン・ルイス、ウェイン・ショーターと、直接的な関係がなさそうなジャズ・ミュージシャンの楽曲を含むのが、カーターの音楽的バックグラウンドを物語るようで興味深い。

 少年時代に親しんだという#1は管楽器アンサンブルのイントロが面白い。フリードマンが編曲を提供したカーターの77年作『ペグ・レッグ』の参加メンバーでもあるジェリー・ドジオンのソプラノ・ソロが聴けるのも、ファンには感慨深いはず。ソニー・スティット作曲のビバップ・ナンバー#2を入れたのは、カーターのジャズマンとしての矜持ゆえかもしれない。全13曲の内訳は3分台が最多の7曲で、他は4分台が5曲と5分台が1曲。長いソロ・リレーを避けて、凝縮した編曲で楽曲の魅力を輝かせる企図に共感できる。新境地を開いたカーターの意欲作だ。

【収録曲一覧】
1. Caravan
2. The Eternal Triangle
3. Pork Chop
4. Opus One Point Five
5. Con Alma
6. Sail Away
7. Opus Number One
8. Sweet Emma
9. Saint Louis Blues
10. Line For Lyons
11. Footprints
12. The Golden Striker
13. Loose Change

ロン・カーター:Ron Carter(b) (allmusic.comへリンクします)
マルグリュー・ミラー:Mulgrew Miller(p)
ルイス・ナッシュ:Lewis Nash(ds)
ボブ・フリードマン:Bob Freedman(arr)

2010年6月、NY録音