ジャーナリストの田原総一朗氏は、昨今の世論の動きに戸惑いを見せる。
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いま、テレビの世界ではコンプライアンスについて、誰も口には出さないが、尋常ならぬ問題だと捉えられている。コンプライアンスとは法律を守るということだが、テレビの世界ではクレームに対する恐怖のことである。
かつては、クレームのほとんどは電話で来た。そこでプロデューサーが電話を受けて、丁寧に聞き、心を込めて謝罪すると、それでなんとか納得してもらえた。
ところが、インターネットの時代になって、ネット上にあげられるクレームはツイッターなどのSNSで炎上して大変な騒動になる。当然ながら、管理部門から経営陣にまで波紋が広がり、場合によってはスポンサーが降りてしまうこともある。
すると番組の生存が危うくなる。
そのために、番組のプロデューサーやその上司たちもクレームを恐れて、なるべくクレームの来ない、つまり無難な番組を作ろうという流れが強まった、と私は捉えている。
だが、そのことを民放各局の番組のプロデューサーたちに問うと、誰もが私の捉え方を否定はしなかったが、「それ以上の問題がある」のだと困惑した口調で話し始めた。
ワイドショーでも報道番組でも政治問題にあまり時間を割かないのは、政治の話題になると視聴率が落ちてしまうためなのだというのである。だから、本当のところ、あまり政治問題は扱いたくないというのだ。
そのことを示す例だといえるのだろうか。たとえば、厚生労働省の毎月勤労統計の偽装が判明した問題だ。
“基幹統計”というのは、文字どおり国家の基幹であり、死活的に重要なものである。統計が不正確であれば、政策を誤り、政治決断を間違える。結果、国家は危機に瀕する。その基幹統計の不正調査が2004年から15年間続けられていたのである。
立憲民主党会派の衆議院議員の小川淳也氏は、「激論!クロスファイア」に出演して、こう主張した。