フェイスフル/マルチン・ボシレフスキ
フェイスフル/マルチン・ボシレフスキ
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ECMの新世代ピアノ・トリオのさらなる追求
Faithful / Marcin Wasilewski

「ポーランドの新世代トリオ」と呼ばれ始めて、すでに10年が過ぎた。きっかけは2000年。輸入盤市場において顕著な出来事の1つとなった、シンプル・アコースティック・トリオ(SAT)『ハバネラ』のヒットだ。

 時系列で振り返っておこう。1990年に音楽学校へ通う15歳のマルチン・ボシレフスキとスワヴォミル・クルキエヴィッツがいっしょに演奏を始め、2人にドラマーが加わってトリオの活動がスタート。その後サックス奏者と共にシンプル・アコースティック・クァルテットを名乗り、93年にボシレフスキ&クルキエヴィッツとジャズ祭で出会ったミハウ・ミスキエヴィッツが意気投合。SATが正式に誕生し、95年にデビュー作『コメダ』を吹き込んだ。同作は『ハバネラ』のヒットを受ける形で、ボーナス・トラック1曲を追加した改題新装版『ララバイ・フォー・ローズマリー』として2001年に再発売され、SATの人気拡大を後押ししている。

 同年にはSATの3人が母国の代表的トランペット奏者トーマス・スタンコに抜擢され、スタンコ・クァルテットでの活動がメインになったことでステージ・アップ。スタンコの2枚のECM盤を経て、2005年に3人連名表記の『トリオ』に至った。彼らの参加作での実績が、ECMでの独立作へと発展した好例であることは疑いない。スタンコ・クァルテットを経験したことによって、SATが生まれ変わったと言ってもいいだろう。日本では実情を踏まえてボシレフスキのリーダー名義でリリースされると、2008年の第2弾『ジャニュアリー』(=邦題『シネマ・パラディーゾ』)では原盤クレジットがマルチン・ボシレフスキ・トリオとなった。

 前作同様、3年間のインターバルで登場したこのECM第3弾は、ボシレフスキのオリジナル5曲とカヴァー5曲のプログラムだ。これまでにウエイン・ショーター、カーラ・ブレイ、ゲイリー・ピーコックといったジャズ・ミュージシャンや、ビヨーク、プリンス、エンニオ・モリコーネのようなポピュラー系の楽曲をリメイクしているトリオは、今回も独自の選曲センスを発揮。特にバラードでその魅力を感じさせる。

 ハンス・アイスラー作曲の映画音楽#1《小さなラジオに》でアルバムの特色を告げると、スタンダード名曲#5ではキース・ジャレット・ヴァージョンに迫り、ブラジルの至宝エルメート・パスコアール作曲の#6をゆったりと時間が流れる美旋律曲に仕立てる。極め付きはタイトル・ナンバーの#3。オーネット・コールマンが66年の『エンプティ・フォックスホール』で発表した自作曲のマニアックな選曲眼のみならず、ジャズ界の隠れた財産を発掘して新たな価値を与え、未来に伝える姿勢を賞賛したい。過去2作でECM新世代ピアノ・トリオの地位を確立した彼らが、さらにオリジナルな世界観を追求した充実作だ。

【収録曲一覧】
1. An Den Kleinen Radioapparat
2. Night Train To You
3. Faithful
4. Mosaic
5. Ballad Of The Sad Young Men
6. Oz Guizos
7. Song For Swirek
8. Woke Up In The Desert
9. Big Foot
10. Lugano Lake

マルチン・ボシレフスキ:Marcin Wasilewski(p) (allmusic.comへリンクします)
スワヴォミル・クルキエヴィッツ:Slawomir Kurkiewicz(b)
ミハウ・ミスキエヴィッツ:Michal Miskiewicz(ds)

2010年8月 スイス、ルガーノ録音

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