Caribbean Rhapsody
Caribbean Rhapsody

10年の取り組みから生まれた熟成の新境地
Caribbean Rhapsody / James Carter

 近年のジェームス・カーターはかつての不調期から脱却し、初期から応援を続けるファンの期待に応えてくれているのが朗報だ。昨年はオディアン・ポープ『Odean’s List』や大西順子『バロック』、および大西の同作発売記念コンサートと、充実ぶりを証明してくれた。もっとも本人に言わせれば「オレは何も変わってないよ」、かもしれないが、録音物を中心に情報を得る我々とすれば、どうしても作品本位の評価になりがちなのである。

 この新作はカーターにとって初めての、サックスとオーケストラのための協奏曲を収録したアルバムだ。きっかけは2001年。カーターとキャスリーン・バトルの共演ステージを観た作曲家のロベルト・シエラが、終演後にバック・ステージを訪ね、カーターのためにコンチェルトを書きたいとオファー。その場では「無理だよ」と答えたが、カーターは受け入れてプロジェクトが発進する。楽譜のやり取りを経て、2002年カーターの生地デトロイトでデトロイト交響楽団と共に初演。その後、北米各地を回った。楽曲を完全に自分のものとした2009年、ポーランドのワルシャワで同協奏曲を吹き込む。

 協奏曲は#1~3の4つのパートからなる(#3は2パート構成)。急速調の#1はアグレッシヴなテナーのカーター節を披露すると同時に、クラシック・マナーのサックス音も表現していて、これまでスポットが当たらなかったカーターのスキルを浮き彫りにする。

 #2は無伴奏ソプラノ・ソロが聴きもの。#3はテナー主体で、躍動的なオーケストラと織り成すサウンドが、このプロジェクトの成果を強烈にアピールする。

 同じくロベルト・シエラ作曲の#5は弦楽四重奏を含む6本の弦楽器との共演。弦カルとの組み合わせはカーターのスタイルからすると、最も遠い位置関係のように思える。だがおそらくシエラはその懸念を織り込み済みで、プロジェクトを推進したのではないだろうか。終盤にはレジーナ・カーターとの掛け合いで、13分超の演奏を締めくくる。この曲の前後にサックス独奏曲を配したのは、カーターが自宅でかつて愛聴したソニー・ロリンズ『ソロ・アルバム』のカセットを見つけたことが理由だという。

 #4はクラシック&ジャズというアルバム・コンセプトから離れて、自由な吹奏に集中した5分30秒。#6は多彩なテクニックでソプラノ・サックスの機能をフル活用したトラック。これら2曲はジャズ・ミュージシャン=カーターのプライドの成せる技だろう。10年近く前からカーターが取り組んできたプロジェクトが、ようやく作品化された“新境地”だ。

【収録曲一覧】
Concerto For Saxophones And Orchestra
1. Ritmico
2. Tender
3. Playful Fast (with Swing)
4. Tenor Interlude
5. Caribbean Rhapsody
6. Soprano Interlude

ジェームス・カーター:James Carter(ts,ss) (allmusic.comへリンクします)
レジーナ・カーター:Regina Carter(vln)

2009年12月ワルシャワ、2010年3月NY録音