レミニセンス
レミニセンス写真・図版(1枚目)| 『レミニセンス/山中千尋』
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CDデビュー10周年目の「コンテンポラリ-・スタンダード」集
Reminiscence / Chihiro Yamanaka

 今や日本を代表するジャズ・ピアニストにステージ・アップした山中千尋は、今年CDデビュー10周年を迎えた。大阪の独立系レーベルで初期キャリアを築き、固定客を獲得。しかし彼女の野望はドメスティックにとどまるものではなかった。2005年に斯界最大のレコード会社、ユニバーサルへの移籍を実現させた時、限りない可能性への手応えを感じる思いだっただろう。

 最大手を味方につけてからも山中の自由奔放さに変わりはない。日本とアメリカを両軸とする環境を活用し、時に会社の意向を無視したレコーディングを敢行。それをアルバム化するだけでも大変なものだと思うが、経済的にも成立させており、山中の幸運さを実証している。8月6日の野外フェスティヴァル《真夏の夜のJAZZ in HAYAMA》では最後から2番目に登場し、ゲストの稲垣潤一(vo)との脱線トークで会場を盛り上げ(盛り下げ?)た。「小曽根さんの前の出番なので緊張する」のコメントは真意ではあるまい。

 山中のアルバムは毎回、選曲の妙で楽しませてくれる。アーティストとして、と言うよりも一ファンとして、様々なジャンルの音楽に目配りする本人の趣味の反映だ。レコード会社の資料に「コンテンポラリ-・スタンダード」集とあるように、今回もヴァラエティ豊かな内容である。

 ジャズ・ナンバーではホレス・シルヴァー『トータル・レスポンス』からの#2での、何かにとり憑かれたようなピアノ演奏が圧巻。ミシェル・ペトルチアーニの#7も作曲者に勝るとも劣らないピアノ力(ぢから)を全開にして、存在感をアピールする。ポップス系では#3を流麗なプレイで、バカラックとカーペンターズのイメージを超えたインスト・ヴァージョンに仕上げた。#10は意外な選曲。フランキー・ヴァリが67年にヒットさせ、82年にリヴァイヴァル・ヒットした人気曲で、ジャズ関係ではフランク・シナトラ、ナンシー・ウィルソン、マリーン、フライド・プライドのカヴァーがある。山中は終盤にフェイドアウト~フェイドインで分裂症的な展開に。本人の選曲由来は世代的にボーイズ・タウン・ギャングだろう。軽やかにそよぐマルコス・ヴァーリ曲#5、点描的な速弾パッセージのフレンチ曲9と視野はワールドワイド。畑違いの楽曲のメドレーを得意とする山中の今回の#8のアイデアは、キャロル・キングとコルトレーンの合体だった。中間のベース・ソロでそれとなく雰囲気を作って、後半へと進むアイデアが秀逸。話題となるバーナード“プリティ”パーディー参加曲#6は、特に顕著なハプニングがあるわけではなく、本作で極端な長時間の8分になった自然体だ。

 通常盤、限定盤、SACD盤で3種類のジャケット写真があり、これはクラシック界最大手のノウハウの成果である。

【収録曲一覧】
1. Rain, Rain And Rain
2. Soul Searchin
3. Close To You
4. Dead Meat
5. Ele E Ela
6. This Masquerade
7. She Did It Again
8. You’ve Got A Friend/Central Park West
9. La Samba Des Prophetes
10. Can’t Take My Eyes Off Of You

山中千尋:Chihiro Yamanaka(p) (allmusic.comへリンクします)
ラリー・グレナディア:Larry Grenadier(b)
脇義典:Yoshi Waki(b)
バーナード“プリティ”パーディー:Bernard “Pretty” Purdie(ds)
ジョン・デイヴィス:John Davis(ds)

2011年作品

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