一方、ある民間のアンケート調査によれば、東証1部・2部上場企業の4割が「社外取締役探しに苦労している」と答えている。確かに、社外取締役選びは難しい。立派な人ならOKとはいかない。本気で経営に注文をつけられたら困るからだ。そんな企業が欲しがるのは、外から見て立派そうな経歴を持ち、それなりにもっともらしいことは言うが、大事なところでは空気を読んで、社長に逆らうことがない人材だ。

 確かに難しい注文だが、実は、そういう人材なら、霞が関には溢れるほどいる。

 一方、無能な官僚から見ると、社外取締役ほどおいしい天下り先はない。

 月1回程度の役員会に顔を出すだけで責任は軽く、能力に自信がなくても心配は不要。

 報酬はばらつきがあるが、大手だと軽く1千万円を超えるケースもあるし、そうでなくても2、3社掛け持ちが可能で、退職前の収入を超えるのも容易だ。

 つまり、官僚、企業双方から見てウィンウィンの関係なのだ。今後は、社外取締役への天下りが激増するだろう。既に、加計学園疑惑の中心人物、柳瀬唯夫元首相秘書官も2社の社外取締役へと天下りしている。

 しかし、「役所は中立公正で官僚は独立性が高い」というのは全くの虚構だ。私の役人生活の経験でも、官僚OBが一般株主のために働くことなど想定できない。彼らは、親元の役所やその所管企業の経営陣の利益を優先するものだ。

 社外取締役によるガバナンス強化という目的に反する天下り官僚OBの受け入れは、やめたほうがよい。東証は、「官僚OBは社外取締役とは認めない」と決めたらどうだろうか。

週刊朝日  2019年5月3日‐10日合併号

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古賀茂明

古賀茂明

古賀茂明(こが・しげあき)/古賀茂明政策ラボ代表、「改革はするが戦争はしない」フォーラム4提唱者。1955年、長崎県生まれ。東大法学部卒。元経済産業省の改革派官僚。産業再生機構執行役員、内閣審議官などを経て2011年退官。近著は『分断と凋落の日本』(日刊現代)など

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