私が平成という時代を思う時、その風景の中にいる女性は、浅野ゆう子でも鈴木保奈美でも中山美穂でもなく、至ってナチュラルなファッションとメイクに身を包んだ深津絵里のような人です。ガツガツ、ギラギラ、ブリブリ、どれにも当てはまらない漠然とした存在感。彼女は間違いなく日本の『イイ女像』に革命をもたらしました。気付けばこの国は、深津絵里風だけど全く深津絵里ではない女たちで溢れ返っている。どんな化粧も髪型も服装も、いまいち流行に乗り切れない女性の約8割が、『深津絵里』という名の駆け込み寺に保護されたと言われています。ある意味、国民栄誉賞級の社会貢献。と同時に罪深い。
そして『Pasco超熟』のCMです。「フォカッチャ……。フォカッチャ……。チャチャチャ」というやつ。今あれが許されるのは深津絵里さん以外にいないでしょう。かのキョンキョンでさえも、あんな暴挙はなかったはず。あの「チャチャチャ」は、満を持して放たれた『深津絵里・天下統一宣言』です。
ちなみに彼女が歌手デビューしたのは88年の10月(正確には同年3月に別名義でCDリリースあり)。音楽業界的には『89年(平成元年)組』に属します。アイドル豊作年でありながらもバンドブーム真っ盛りに加え、主要歌番組が次々と終了した時期だったため、80年代的なスター歌手は生まれませんでした。そんな中、無表情で都会的な雰囲気を漂わせ、歌も上手だった深津さん。同期デビュー組には島崎和歌子さんもいました。彼女もまた平成30年間をたっぷり使って現在の地位を確立した天下人。深津さんとは真逆の座標に君臨している印象ですが、こちらは正真正銘の超正統派美人です。
※週刊朝日 2019年4月12日号